俺は、自分の村の村長（兼俺の槍の師匠）イザベル・クラオンのことを「ばーさん」と呼んでいる。
そう呼んではいるが、彼女は俺の実の祖母というわけではない。
他のやつがそう呼んでいたから、俺もそう呼んでいただけだ。「村長」と呼ばれていることのほうが圧倒的に多かったけど。


ついでに言うと、「ばーさん」という年でもない。
今年で５０、いくつかになるけど、普通それはまだ「ばーさん」じゃないよな？俺が成人する前だと……４０代か。
だが俺の村では、俺が成人する前から村長が最年長だ。
だから、彼女が「ばーさん」と呼ばれていることに俺は全く違和感がなかった。村の外に出るまで、人というのは「それくらい」が普通なのだと思っていた。





俺の村は傭兵なんてものを生業にして稼いでいるから、戦いで死ぬやつのほうが圧倒的に多い。
だから、現村長が最年長だとしても全くおかしくはない。
とはいっても、それを差し引いても時期が早いんじゃないかと最近思うようになった。
一応、「４０〜５０代の人間が村で最年長という状態は比較的少ないらしい」と現村長イザベルが言っていたが、過去に村で一番長生きだったヤツや、今までの村長のだいたいの年齢を聞いてみたら、イザベルよりは年上だったものの、やっぱり村の外のヤツに比べると短かった。






ふと、思い出したこのことをヴォルカンに聞いてみたら、いつものように笑うこともなく、なぜか何も返してくれなかった。

ヴァルはコロに向けてカマドウマを投げ返した。

言い掛けて、力が抜けたように蹌踉めいた。溜息をついてその場に座る。

立ち上がり、弓を背に掛けると腰に携えていた剣を抜いた。

傭兵の肩に剣の刃を置く。

告げると、剣先にフリントの紋章が浮かび上がった。
それを認め剣を鞘に仕舞う。

（リンゴくらいの大きさから、スイカほどにまでふくらんでみせた！）

普通に話しているのに一滴、インクが落ちて紙に滲んだような、じわりと広がる…そんなナニカ。
もしかしたらどこか違和感を感じたかもしれないし、でも気のせいにしか思えなかったかもしれない。

やられるほうとしては溜まったものではないだろうが

懐を探ると、あの時持っていたパペットを取り出す。
黒猫で赤い眼をしたパペット。装着してみると、ぱぱっと大手を振って動かしてみる

パペットに口元を寄せて、ぱたぱたと仰々しくお話を始めた。

急に笑い出すヴァルに噛み付こうとするが、
騎手の命令を受けてブーイオはアーシェを後にして駆け出していく。
そして———


トンと軽やかな音がした次の瞬間、
槍の穂は冬瓜の中心を割ることなく貫いていた。
手応えすら返さぬ鋭い一突きだった——
ブーイオはヴァルを讃えるように小さく鳴き、速度を落としながらアーシェのもとへ連れていく。

若者は軽く衝撃を受けている。

軽い冗談のように言って、ヴァルに歩み寄る。

充分に手の届く、息づかいも温度も感じられる。
その距離まで来ると、若者はどこか不敵そうに笑ってみせた。
緋色の髪が揺らぐと共に、炉辺のような熱が
ヴァルの肌に伝わってくるのを確かに感じ取るかもしれない。

少し、言い淀む。

揺らめき。
さざめき。
怨嗟が這い回る。

頬を掻く青年である。
どう反応すればいいのやら、といった顔だ。

まあ、色々あるのさ。
そういって言葉を濁しつつ視線を逸らした。



続く問いには、視線を戻し。

空中に現れた画面を操作すると、画面の縁を残して透明になる。
ヴァルが逃げなければ、
画面をヴァルに向け「何か喋ってみて」と言ってみる。

カサカサと、走る風に煽られた茂みがコロの鼻をくすぐる。

風が茂みをかき混ぜると、ミルとコロは驚いて飛び出す！

ミルは左に、コロは右に逃げる。
ミルは手に蛇を、コロはアンテナを伸ばした無線機を持っている。
ヴァルが本気ならば、どちらも捕まえられるかもしれない。

　それなら殊更僥倖だ、とナスルは夢見がちな様子。
　

　宿探しとかではなく——と付け足しつつ、
　ナスルはヴァルの現状に興味が有るようだった。