とりあえず、現雇い主様（アーシェ）の依頼はなんとかなった。
研究棟で待ちかまえている学者を倒すっていうの。
で、ついでに契約はもうちょい延長になった。
俺も特に予定はなかったし。何より、ちゃんと支払いをしてくれる雇い主というのは貴重だ。
提示された報酬もそれなりに良かったし。


しかし、コロに四六時中追いかけ回されるのは疲れる。
遊び盛りの体力底無しっぷりは怖い。
俺もそうだったから人のことは言えないんだけどさ。




それにしても、何なのあれは。
えーっと、クローンエンブリオ、だっけ？人工的に作ったエンブリオって何なんだ。
しかも次々に出てくるし。
おかげでいつも以上にラファルやリュジスモン、エテルネル達の力を借りることになっちゃったし。
あんなに立て続けに駆けながら槍を振り回すなんてそうそう無い。
というか、あんまりそんな場面に遭遇したくない。
ものすっごく疲れるし。
槍だけじゃなくて服も、ものすっごく汚れるわ擦り切れるわで大変だし。
しばらく無いことを心の底から願う。
いや、もう、本当に。


力を借りすぎたせいか、少し体が重い気がする。
しばらく、夜の見張りはシャグランに全面的に任せてさっさと寝るか。






力を借りすぎると、自分を捕まえ難くなる。
気を付けよう。




お借りしました。
ENo.204 アシェラッド＝ウィアド・ケーナズ
ENo.1519 コロナ・トマルクトゥス

夕刻、ヴァルがその場を離れている頃だろうか。
ぼんやりと野営地に座して休んでいた頭に直接響いてくる声。
若者はびくりと身体を起こし、辺りを見渡す——

やがて火の焼ける匂いと共に現れたエンブリオは、
いつか酒場で姿を見たエンブリオ・サラマンダーだった。

名を唱える。

若者に恐れたり、訝る様子はない。真っ直ぐに見据えてそう問いかける。

　もっとも。相当に無理をしたわけだが。そう小さくこぼす。

と、言って右手から小さな火の玉を出した！

ふふ、と笑い、

大きな声に少し動揺したようだ。

　近付いてくる人物を認める。その赤には見覚えがあった。
　そう、韮の市で同行者であるミハウと一緒に居たら、
　彼に対し、自分のことを指して、「隣にいるの彼女？」とかさらりと言ってのけた人物だ。
　その後は何だか妙に気まずい空気が流れたのを覚えている。

　一瞬の口許の動きには流石に気付かないが、まあ、雰囲気を感じ取ったんだろう。
　そう言って、彼との関係を強調した。

　何か思う所でもあるのか、呟くようにそう言った。

割と本気で聞いているようだ。

>「まずは『一緒に』俺が一通り店を紹介しながらまわるってのはどうだ？」

少し顎に指を当てて思案してから応える。

　じゃ、次に声をかけるよ、とナスルは付け足しつつ。
　指折り数えて事典亭のメニューを思い出していた。