「……グノウ、その傷のことだけど」
いつもの口調でメープルさんは淡々と続ける。
「なんだか今日は治りにくい感じがした。特にその脇腹の傷は危ないと思って一番最初にふさぎはじめたんだけど、
まだ傷として残ってる。無茶しなければ開くことはないと思うけれど」
「………」
言われた傷を摩るように触れる。まだ、ずきり、と痛む。
「…原因は、なんでしょうか」
「…わからない。今日はいつもと違うことがいっぱいあったから」
いつもは戦闘中に戦いながら傷を治しているということ、それを終わってから一気に治した。
不死王という強大な敵から受けた傷だからという可能性。
メープルさん自身も戦闘で疲れていて回復に回す力がいつもより残っていなかったかもしれない。
それらの要素が重なったか、あるいは——
「…もしかしたら、気のせいかもしれないけど」
「いえ、メルンテーゼに来てから大半の傷はメープルさんに治していただいています。
その貴方が言うのならそうなんでしょう」
「今日一日だけのことだとは思うんだけど、もし続くことがあれば」
「…異常だということ、ですね」
こくり、と頷く。
「…気をつけます」
膝で眠る坊ちゃんの髪を梳かすように撫でながら考えを巡らせる。
でも今日は三人はあまりに疲れていた。
自分が倒れたりしなければ、もっと勝利の喜びをかみしめていたかもしれないのに。
「疲れてる時は休むのが一番だよ、迦楼羅みたいに。体が疲れていたら治るものも治らないから」
考えを見透かしたようにメープルさんはそう言った。
「……そう、ですね」




「……ん？」
「どうしたの」
「私だけ、ですか？ノーライフキングと契約したのは…。てっきり皆するかと」
「うん、しようかなって思ったんだけどやっぱり私には必要ないなって」
「そうですか」
「それに今の私のブームは"水"だから。時代がキてるから」キリッ
「そうですか…」

頭を撫でられると、小さな着ぐるみの手でより強くしがみつく。
よっぽど嬉しかったらしい。

　

自分の世界しかないと思っていた、と聞き、

少女はあなたの言葉が理解できないように戸惑った顔をしていたが

何処か懐かしいような笑顔でそう微笑み

彼の身なりと物腰から、そんな風に検討をつけて問いかける。
その視線が己の顔より少し下へと降りているのに気がついた。
そういった視線には慣れているのか、いたずらっぽく笑って、ぴるる、と尾羽を震わせた。

といいながら、今度はこちらが彼の身なりを見つめる番。
んん、と小さく声を漏らして首をひねり。

大急ぎで両手をグノウの肩から放して上に上げる。