1. 攻城（イルヤナ前哨戦）

シュガー達は大草原へと進行する。れんたろうのパーティと共に突貫し、妖精の泉を守るというイルヤナを撃破するのが目的である。道中に敵勢のエンブリオであるコルヌやコロコロといった草原の精霊たちに遭遇する。

シュガーは腕組みをしたままエンブリオたちと相対する。シュガーの周囲には黒い奔流がほとばしり、明王の後背炎のごとし。アイリスが敵勢エンブリオの攻撃を引きつけ、シュガーが腕組みを解いて両掌を突き出すと、黒き奔流は次々に草原の精霊達を押し流し、圧倒していく。

再びシュガーが腕組みの構えに戻ると、アイリスはコルヌの魅了攻撃によってロックされてしまい、頭を抱えたり、地面を転げ回ったり、何かはだけてみたりと、色々といたたまれないことになったいた。

2. 練習試合

とはいえ、突貫の模擬戦に行われた練習試合では、ペガサスのギフト神唄によってシュガーも魅了ロックされてしまい、アイリスと一緒になって、

ぼーとしたり、
地面を転げ回ったり、
何かはだけてみたり、
求愛の歌を奏でてみたり、
ニヤニヤしてみたり、
不思議な動きをしたり、
頭を抱えてみたり、
良からぬ妄想をしたり、
落ち着かなかったり、
うっとりしたり、
興奮しすぎてまともじゃなかったり

等々、魅了ロック時のいたたまれない行動についてのサンプルを他の一揆衆に提供していたのであった。

3. 戦術級会議

イルヤナ戦を想定した練習試合も終わり、両パーティは大草原の幕営地にキャンプを張る事となった。イルヤナ戦での戦術について、白熱した議論を重ねた。イルヤナについてはすでに他のパーティの調査によってその能力の多くが明らかとなっている。こちらの攻撃によるダメージは復元領域という能力によって無効化されてしまい、終末時計という全体に効果の及ぶ自滅の付加をしかけてくる。特に終末時計は重ねがけが可能となっており、戦いが長引くとあっというまにこちらの体力が奪われてしまう。さて、我々はいかに戦うべきか？というわけだ。

両パーティの面々はたき火を囲みながら、あーだこーだと議論を重ね、れんたろうがアイリスとペガサスによる序盤でのSP攻撃作戦を提案した。序盤にSP攻撃を行うことにより終末時計を抑止し、イルヤナがSP回復を行っている間に、シュガーは自滅付加を積み重ねる、という戦術である。悪くないと思えたのでシュガーもSP攻撃作戦に賛成し、アイリスもふんふんとうなずいていた。

パチパチと薪が焼ける音を聞きながら、シュガーは空を見上げた。一等星と六等星の区別もない満天の星空であり、銀河の中心部が目の前に広がっていた。久しぶりのにぎやかな夜だ、とシュガーには感じられた。

4. 深夜の特訓

その夜、シュガーがテントでうつらうつらとしていると、何者かがテントの周りを歩き回る足音が聞こえてきた。シュガーがテントの外に出てみると深刻そうな顔のアイリスが立っていた。シュガーが何事かと話を聞いてみると、アイリスは「SP攻撃なんて今までやったことないので自信がない」と言いだした。

今更何を言っているんだとシュガーはため息をつく。イルヤナには大ダメージを与えてはいけない。そんなことはこれまでの議論で何度もでてきた話じゃあないか。

アイリスは半泣きで、頭をかかえているふうで、その姿はまるで「庶民の娘が瓜二つのお姫様と入れ替わったはいいが慣れない社交ダンスや社交界のしきたりに涙目になっている」という図なのである。「だってオラは人間だから」の図なのである。イルヤナの突貫は明日に迫る。シュガーは先に言えよという言葉をどうにか飲み込み、天を仰いで思案する。この元装飾職人ののんびりねーちゃんのSP攻撃を魁にパーティは突貫戦を戦いぬかねばならないのだ。

思案の果てにたどりついた結論を胸に、シュガーは腕組みのままニヤとアイリスに笑みを向けた。

ただし、その笑みは紳士がレディに向ける類の爽やかなものではなかった。戦に臨んだ男達が燃える眼光を取り交わすその時に見せる凄絶な笑みであった。

かくして、アイリスのSP攻撃習得の特訓が始まった。まずシュガーは壇ノ浦怨霊拳の精神攻撃のレクチャーを始めた。そもそも、壇ノ浦怨霊拳は平家の怨霊の召喚に基づく闘法であり、戦いのスタイルは大別して3種類に分かれている。落雷などの天変地異を起こす具現化タイプ、怨霊たちの悲惨な運命の記憶を自らの力に換える自己強化タイプ、怨霊の悲惨な記憶を敵に見せることによって敵を無力感に陥らせる精神攻撃タイプである。

シュガーがアイリスに教えるのは怨霊による精神攻撃であり、（脳みそのシナプスを伝播する化学物質の信号とか、海馬などの記憶領域とか、小難しい説明はとりあえず省略して簡単に説明すると）敵の脳みそに干渉して幻覚を見せる攻撃方法である。そして、心身は相関する。その幻覚はホラーだったり鬱展開であり、技を受けた者はダウなー気分で体調まで悪くなる、というわけである。敵が己よりもより強烈な鬱展開を経験したことがあるか、あるいは、強い精神力の持ち主ならば効果が薄く、対手の鬱展開力と精神力を競い合う冥府界隈でも華形な攻撃手法であった。

まずは実演というわけで、シュガーはアイリスに立ってもらう。シュガーは息を整え、一息にアイリスとの間合いをつめる。足を踏んでアイリスの動きを封じると、その耳元と目元に空拳を鋭く３発放ち、身を翻して決めポーズをとった。壇ノ浦怨霊拳の奥義「潅頂巻の四 六道 」であった。一見して拳は空をきったわけだが、アイリスはがっくりと膝を折り、憔悴した瞳でシュガーを睨め上げる。シュガーがアイリスに見せたのは、栄耀栄華を誇っていた平家が没落して滅ぶ有様であり、天道から地獄に至る六道に喩えられた浮世の無常であり、そして、我が子を失った母（建礼門院）の嘆きなのであった。

精神攻撃を受けてすっかりしょげてしまったアイリスを励まして、次にシュガーは闘気やオーラを介して電場や流体への干渉する方法をレクチャーした。コップの水や携帯ラジオを敵の脳みそに見立てて練習した後、いよいよ本格的な型稽古となった。アイリスにはシュガーの怨霊を貸してひたすら拳をふってもらうことにした（本番ではエンブリオを用いる）。わりとすぐにへこたれるアイリスを、シュガーは怨霊と一緒になって励ます。彼女の耳元では「頑張れ頑張れできるできる絶対できる頑張れもっとやれるってやれる気持ちの問題だ頑張れ頑張れそこだ！そこで諦めるな絶対に頑張れ積極的にポジティブに頑張る頑張る怨霊だって頑張ってるんだから！」とか（聞こえているかどうかは別として）霊体の声で騒がしいことになっていた。

アイリスもシュガーも千も二千も拳を振るい、かくして、夜は更けていった。ついにはアイリスは地面に大の字になってのびてしまい、シュガーがマントをかけてやると猫のように丸くなる。シュガーは空が白み始めた空を見上げてため息をつく。

ため息をついてシュガーも地面にごろりと寝転がる。目を閉じてシュガーは思う。そうだな、と。アイリスが輝けるように、人の尊敬を集められるように、自分もできるだけのことをしてもよいのだろう。アイリスは長く苦楽を共にしてきた旅の友であり、数少ない人間の友達なのだから。

5. 突貫戦へ

午後、シュガー達は隊列を組み、イルヤナが待ち構えているというポイントへと進行した。かの地ではゴンザブロウという和服の男と金髪碧眼のイルヤナが対峙して口論となっており、イルヤナ曰く、その先は妖精の住処であり、一揆衆には妖精達の静かな暮らしを妨げないでほしいとのことであった。

イルヤナはどうやら妖精愛護精神の持ち主のようなのだ。とはいえ、もし仮に妖精の住処が新王に有益であるのならば、その制圧は一揆衆の利益となる。シュガーは拳を握りイルヤナの妖精愛護精神を踏みにじる覚悟を決める。浮き世はやはり無常である。

草原でイルヤナと対峙していると、ざわとざわめく草原から、風とともに冥府からの声がシュガーの耳に届くのだった。しみじみとした穏やかな声であった。

ベストを尽くした実感がシュガーにはあった。後は物事がうまくいくことを祈るばかりである。突貫パーティの主軸である自走砲のれんたろうに信号旗が立つ。シュガーはその意味する所に従い、イルヤナへの間合いをじりじりと詰める事にした。シュガーは静かに息を吐く。眼前のイルヤナに意識を向けた。

シュガーは怨霊と会話をしているようです

シュガーは怨霊と会話をしているようです…

シュガーは時々意味不明なことを呟きますが、
　怨霊と会話をしているのです。気にしてはいけません。