暗い暗い闇の中。
小さな何かが飛んでいく。

それを追うように、夜に紛れ這いずる「影」の姿。
彼はそれが何かを知っている。
知っていて、かつては手を出さなかったその影たち。
孫たちが滅ぼしたはずの災厄の形。
それらが力を大きく制限された彼を狙い、今にも喰らおうとしている。
そしていざ彼を喰らおうと、影がうごめく。

影たちが幸運だったのは、恐怖が無かったことだろう。
彼が一瞬意識を向けたとき、並の恐怖心があればその身に訪れる最期をはっきりと見ることになったはずだ。

影たちが不幸だったのは、彼を知らなかったことだろう。
彼は天上の存在より竜王と呼ばれた、一匹の最強種であることを。

リュート・フェルディモスが、大きく口を開いた。
小さな体躯のはずが、恐ろしく巨大な竜の如き殺意を持って。


喰らう。

人の心、そして命を喰らう災厄そのものを、恐ろしい勢いで食いちぎる。

本能のままにリュートを飲み込もうとする影を、ものともせずに喰らい続ける。

捕食者が恐ろしい勢いで喰らわれ、嚥下される。


しばらく時間が経つと、そこには僅かに眉間に皺をよせたリュートの姿がある。

そうしてしばし、『捕食者狩り』を続ける一匹の魔竜の姿がある。
いくらかの影を喰らい尽くし、さらなる餌を探していると。
少しだけ、違う黒い姿を見つける。

それは彼の知る影ではない。
意思なく漂いリュートを喰らおうとしているが、それは先ほどの影とは違い明確に人の形をしている。
そしてリュートから力を奪うべく、襲い掛かる。

対処は変わらない。
ただ、喰らうのみ。

再び口を開き、黒い影を捕食する。
小さな妖精程度の姿をしたものに、本来捕食者であるはずのものが恐ろしい勢いで飲み込まれてい
く。

少々不満げな空気を漏らすが、すぐにそれも収まる。
ふと気付くと、周囲に大量の闇が集まっていた。
だがそれを予見していたのか、リュートは静かに目を見開いた。

それらの闇どもを捕食するため、再び動き出す。

夜が明けるまで、彼の食事は続く。

-　しっぽを大きく振って寄ってくる