「——本当に、良いんだな？　———」

机を挟んで、二人の男が話をしている。
ひとりは30代後半、もうひとりは10代半ばといったところだろうか。
不思議と、その二人の顔ははっきりと見えない。
そして、人名らしき部分だけ、何故か聞き取る事が出来なかった

「ああ。兄さんや姉さん、それに———には、アイツを宿すには荷が重いだろうしな」

二人が視線を向けた先には、刻印を付けられた、炎を纏う『モノ』が眠っていた。
休眠状態でなお、その炎は荒々しく、何かを求めるように燃えている。

「なあ、兄さん。本当に、これでアイツは静まるんだよな？」
「父上の遺した文献の通りならば、な。だが、お前は無事では済まないのは、確かだろう。
　すまない、———。弟の過ちの尻拭いをさせてしまうことになって……」
「気にしなくて良いって。これは、俺自身で決めた事だ。兄さんが気に病む必要は無い。
　……それじゃ、アイツが目覚める前に、儀式を終わらせるとしようか」

弟の方がスッと立ち上がり、短剣で自身の指先を切る。
滲んだ血で自らに印を結ぶと、『モノ』に付けられた印と共鳴するかのように、淡く光った。

「……これで準備は完了……。兄さん、始めてくれ」
「ああ……。——Besessenheit——Festsetzung——Sealed——……」

言葉を紡ぐと同時に、二つの印がより輝きを増す。
やがて、『モノ』は光の粒子と化し、男の方に流れ、吸い込まれるように消えてゆく。
「グ……が……ァ……」
それと同時に、男が呻いた。
黒い髪は赤く、その双眸は金に染まる。
メキメキと軋む音を立て、その背からは龍にも似た翼が生えた。
「ぐ……あああああああッ！」
苦しむ弟の姿を見ても、兄は祝詞を紡ぐ。紡ぎ続ける。

やがて、『モノ』が完全に消えると同時に、男に刻まれた印も消滅した。
残された男は、先程までの事が嘘のように、その姿は元に戻っていた。
——『一部が赤く染まった髪 』を除いて……。

———————

「……ッ！？　今のは……夢……か……？」

妙に、記憶に鮮明に残る夢だった気がする。
まるで、その光景を知っていたかのようだった。

「赤い髪……金の双眸……龍に似た翼……」
チラリと相棒の様子を見る。
彼は、火の玉の姿で、カンテラの中ですやすやと寝息を立てていた。
人型の彼と、夢で見た変貌した男の姿。瓜二つの特徴だ。


「まさか……な」