頭の奥が、痛い。
この世界に来て、目が覚めたときには、いつもこうだ。

はじめの数日は、眠ることもできなかった。

またあの夢が
痛みと恨みと呪いと叫びと怒りと恐れと痛みと悲しみと痛みと痛み、死の吐息
後天的な人でなし　神への冒涜　御しきれない力の拒絶
何度も
民の声
聖人の断罪
物盗りの稼ぎ口
何度も　　が殺される
くろくてあかくてみどりいろ

またあの夢に喰わてしまうことが怖くて。

身体を癒すために横になり、目を閉じる。
それだけで随分楽になっていたが、拭えない重みが積もるのを感じた。
耐えられないほど積み重なったときに、がしゃりと意識が落ちる。
そして1、2時間ほど経ったころに、水面から顔を出すように私は意識を取り戻す。

そんな眠り方を、何度か送って。

幾度目かの晩、今夜こそ夢を見てしまうのではないかと怯えながら、
それでも身体から力を抜こうと息を吐く。
熱を持った空気が、歪ませられた。
頬に戻ってきた風は生暖かく、気持ち悪い。
なにがおきたのか、ゆっくりと瞼を持ち上げると、薄暗い中でも目につく橙色が其処にいた。

「……クラちゃん？」

寝ているみんなを起こさないように、小さな囁き声。
きちんと聞こえていたようで、ヒトガタは一度だけ頷く。

「寝なくていいの？」

聞いてはみたが、ヒトガタは日中私の服のどこかでぼうっとしている。
その時に眠っているのかもしれない。
クライスは何も答えない。
もしかして、眠らなくてもいいのかもしれない。
昼間に微睡んでいるとしても、睡眠が必要ないとしても。

「……いいなあ」

羨ましかった。
その声は私が思っているより深刻だったのか、クライスはふわりと浮きあがる。
かと思えば、横に向けた私の顔の上に寝そべる様に乗ってくる。
重さはほとんどなかった。
大きな袖に包まれた腕を広げれば、小麦色、といってもこの状態じゃほとんど黒い。柔らかな闇が視界を染めた。
クライスなりに励ましてくれているのだろうか。
心遣いと、微かな重みが嬉しくて、口元が緩む。
そうして何時しかとろとろと、私は穏やかな眠りに落ちていく。

ゆめは、みなかった。



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どうしようどうしよう
声をかけられた。誘われた。
私は、この世界に、居てもいいのかな。

彼女がそういう人だと考えなかったこちらの落ち度だ。
私がもう少し気をつけていれば、シセにこんなに謝らせる事はなかったのに。
——これだから私が他人と関わると、良いことにならないんだ。

たぶんその意味は、彼女も分かっているだろう。
あれ以降合わされる事の無い視線が、それを物語っている。

そう。この得物は、決して褒められたモノではないということ。

もし、本当に彼女が『呪い』について聞きたいというのなら。
ひとつだけ、確認しておかなければいけないことがある。

サンドは自分へ伸ばされた腕に歩み寄り、それを身体で受け止めた。
気持ち良さそうに目を瞑り、どこからか小さくきゅう、という鳴き声のような音を発する。

先ほどまでの明るさが消え、少し悲しげな顔で、ぽつりぽつりと零すようにに言った。
言葉が途切れたと思えば、ニコレットは少し俯いて独り言のように呟く。

彼女らしからぬ低い声に驚いたのか、サンドがぱちりと目を開いた。

何言かと呟く少女に、不思議そうな視線を送り。