ドキュメント-０３

　この世の一切は流れて過ぎ行く。
　それは私を忌々しくも取り巻く時間も、例外ではなかった。あれから二年ほどの月日が流れた。
　私が歩んだ時の旅の経過は、無為の残骸である。結局の所、結論は出たもののそれを実現するには、途方も無い程の時間が必要になるという事が——当然ながら——解った。
　結論から言おう。私にココロを作り出すことは——出来る。
　だがそれにはあまりにも時間が足りない。私は流れる時間の冷徹な程の平等さを、これ程までに忌々しく思った事はないだろう。
　必要な事は、時間の圧縮である。技術の進歩はこの際問題ではないのだ。
　私はココロの存在を、神性の模造品の類似であるという結論に至った。キリスト教ではそれを少々の苦し紛れに、三位一体と表し矛盾の解消としての手段としたが、その矛盾をこそが私の強い武器になる。
　即ち話はこうだ。『それそのもののように見えるもの』は『それそのものではなかった』としても『観測をするという一点においては真になりえる』
　更に掻い摘んで言えば、それっぽく見えるのであれば、其れそのものである必要はないのだ。代用品、と言ってもいい。前述の教義の愚かな処は、時代がそうさせたとは言え、模造品としての存在を慣用できなかった処にあると言ってもいい。
　観測者への完璧なるペテンは、真なるものとなりえる。それならば、真偽を私が問う必要もなくなり、作る必要も無くなるのだ。
　完璧なるココロの模造品。私はそれを作製する為の思考実験を行った。数十億に及ぶ、行動パターンを基盤とし、そこから『状況』という分岐を加える。更には揺らぎも必要だ。
　揺らぎというランダム要素が、人の心で言う迷いや躊躇を生み出す。速決即断を時には不可能にする事も、人間味を演出するのに大きく役に立つだろう。
　そこには、感情や思いなどと言った不確定要素は必要とせず、あくまで機械的な処理のみを用いて、ココロの模造品を作成する事が可能になるはずである。
　そう、そして、私は。そこでまた壁にぶつかる。
　私の理論は確かに再現する事は出来るだろう。だが、あまりにも時間が足りない。それだけの作業を行うには、数十年といった取るに足らない時間の浪費ではまるで足りないのだ。
　何処かで、簡略化が必要である。
　ココロ。
　先にも触れたが、人間の心というものは脳組織を形作る物質が機械的に作動し我々に錯覚させているに過ぎないという話をする者もいる。
　ココロは人間の脳が見せる、システマチックな夢の残滓であるならば。
　何者かの脳構造を、そのまま模倣する。それが一番の近道となるのかも知れない。
　どこか、手頃な人間はいないものだろうか。出来れば、私が飼育できる人間であれば尚良い。
　私は今それが最も効率の良い方法なのではないかと、そう考えているのだ。実に建設的な思考であると自負している。
　私の歩んだ空白の二年は決して無駄ではなかったようだ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2012年　12/01　我が書斎にて
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　フィリップ・ボウマン



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「現在のパラメータを表示します」








「ＡＩ【ADAMALICE】正常に作動しています」

アエレアの雰囲気がどこかしら変わってるというか…少し人間らしくなったのを感じながら説明をする。

アンチマテリアルライフルを持っている彼女は貴方の得武器を見て頷く
（ルを入れ忘れた私(涙

男は眼前の少女の“表情”にその瞳を向けた。
確かに向けられているのだが、どこか焦点の合わない、虚ろな瞳。

会話をするように、けれどやはりそれは、会話というよりは歌となって発せられる。
分かりやすい形に嵌めようとしている努力を完全に無視している。
会話としては支離滅裂であるが、恐らく、それでも一部は伝わるだろう。

動く気配がありません。……要は涼しいのですね。
さらに投げかけられた問いには、僅かに首を傾げてしまいました。
そして何を思ったのか、アエレアが手を下げればこちらが手を差し伸べます。

こっちの水は冷たいぞ。とでも言うのでしょうか。
掴んだら引きずり込まれそうな気がします。

自然体で振り向き、流れるように返事をされた事に少し驚いて…。
でも、直ぐに気にしなくなったようです。
性格的に、その現実をありのままに受け入れているせいかもしれません。

一度言葉を切り、こう続けました。