グリーンパレスを訪れるのははじめてだった。
同じ森でも護りの森とは少し違った雰囲気だった。
長閑ではあるがところどころに置かれたオブジェに、揺れる木漏れ日。
護りの森はもっと獣道だったが、こちらの方は道が出来ている。
森、というよりは森を…自然を使った庭のようにも感じられる。

「グノウさん」
私の名を呼んだのは、こちらに来てから坊ちゃん共々お世話になっている陸月さんだ
「何ですか、むっくんさん」
振り返り尋ねると思ったよりも
「…ずいぶんと大人数ですね」
「いや…誰が代表してグノウさんと話すのがいいかなーと思って」
「話す…？」
「ちょっとだけ話がややこしいんですよぅ…」
陸月の後ろにはエンブリオ達。いつも見かけるナズナさんに、たまに見かける古瀬さん、あっちは…カイリさん、だったか？
それから—
「……」
目を細める揺れる木漏れ日の光にあたってなのか、ゆらりと誰か見えた。
本人が体が揺らめいているのではなく、光に合わせて濃く見えたり薄く見えたり、そんな風に見える。
「…見えます、ですぅ？」
視線の向かう先に気づいたのかナズナが尋ねる。
「見えても大丈夫なものですか？」
「霊的なものじゃないから大丈夫よー」
「…では、あの方は」
「エンブリオ……だ…」
「エンブリオ、にしてはずいぶんと不安定な感じがしますね」
「そのことも含めて相談しようと思ってきたッスよ」
「……」
「……」
もう一度、ゆらめく人影の方へ視線を向ける。
しっかりととらえることが出来ないその人のことを陸月さんとそのエンブリオが考察を交え話してくれた。

「……そう、でしたか」
軽く頭を押さえてため息混じりに言葉を吐き出す。
坊ちゃんのエンブリオのアレジア。そしてオーガの力を携えた不安定なエンブリオとの関係。
元々は私達と同じように人間であったこと。
そしておそらく人為的にエンブリオとして契約出来るような体…いや、おそらく精神も関わることを考えると記憶の方も納得できる。
「…確かにややこしいですね」
「かるらんには…」
「坊ちゃんには言わない方がいいでしょう。我々は彼女の姿を認識することが出来ない。坊ちゃんに話すということは
彼女が聞いているかもしれないということです。元がどうであれ今は坊ちゃんのエンブリオですから」
「…アレジアをそうした奴に筒抜けかもしれない、ってことか」
不規則に姿が揺れるオーガのエンブリオが言うと、グノウは小さくうなずく。
「それと、下手に解約することもいいとは言えないです。人間がエンブリオになる、ということだけでもかなり不安定な筈。
解約することで何が起こるかは分からないですからね…」
「じゃあ、明日かるらんと合流する予定だけれど、このことは秘密ってことで」
「ええ、よろしくお願いします」
「でもナズナちゃんも一緒ッスから、アレジアさんの様子はうかがえるかもしれないッスね」
「…向こうが彼を見て何か思い出すきっかけになればいいのですが。……」
「どうしたんッスか？」
「……いえ、記憶の件で一つ私もずっと思い出せないことがあるんです」
「どんなことですぅ？」
「…忘れている、ということは思い出したのですが、それがどんなことなのか、あるいは人物なのか。
…でも、おそらくですがここに来るきっかけがどこかであったとすれば、きっとそれが関わっているんだと思います」
「……忘れ、させられてる……」
「…かもしれません。そしてそれは坊ちゃんと共通した何か」
「んんー、つまり大元の悪い奴が居るって事ッスね！」
「共通した人物の可能性は高いですね」
「ぽっぷーのこともそうなんッスかね…あ、でもぽっぷーの件は順調なんですよね？」
「おおむね順調のようですよ」
「だったら一個ずつ解決していくしかないッスね！」
ぐっと拳を握る陸月。
「…そうですね」



「そういえば、そちらのオーガの方のお名前をまだ聞いていませんでしたね」
「あ、それは俺がちゃんと見えるようになったら教えてもらって話で—」
「そうですか。でも聞いておかないと不便なのであちらでちょっと耳打ちして教えてもらいましょうかね」
「Σず、ずるい！！」
「冗談ですよ。主であるむっくんさんより名前をお聞きするのも、ね」

戦闘が終わってエンブリオを数えはじめる

　　　　　　　　　　天を見上げて死んだ、最初の人間。