ここに来るのはずいぶんと久しぶりだった。
ルリアンナとラルフに、一揆参加の意思表明をして、彼と出会って、初めて向かった場所。
初めての遠出にわくわくしたのも、大冒険の予感も、一揆に参加するということの意味を思い知らされたのも、すべてここ。
出会ったエンブリオは、あの頃は影も見つけられなかったものだけど。
今、対峙している彼は、あの日あんなに恐れた兵士の更に上、彼らを束ねていた人だそうだけど。
今は。
湿った土の感触、茂る緑が黄色い足裏にくすぐったい。
心地よい風にくすぐられた髪は、鮮やかな日の光に照らされ、白っぽく輝いていた。

「うふふ〜　お日さまって、やっぱり気持ち良いわよね〜」

さあ、彼らを倒したら、晩ごはんは何にしようか。
道中見かけた、食べられる木の実や果物を思い浮かべながら、杖を構えた。

夏特有の、じりじりと肌を焼く日差しに双眸を細めている——

彼の言葉に頷きながら、内心で少し、考えていた。
彼の告白を聞いて…怖いだなんてつゆほども思わなかったけれど。
でも、すぐには拭えない驚きが、無意識に彼との間に線を引こうとしていたのかもしれない。

その考えと見えない線を振り払うように、ぶるぶると首を振り、ぱちんと両手で頬を張る。

なんて言ってる今現在、立ち働く彼を見ながらのんびり座らせてもらっているだけでも、
充分甘えさせてもらっている用に思ってしまうのだけど。
彼のしぐさに意図を悟って、だいじょうぶ、と首を振り、ぷつぷつと縫い合わせた糸を切る。
足に巻きつける。
布を足首でまとめてリボンで結びながら、彼の言葉に小さく笑う。

せっかく立ち上がったのが、またぺにゃんと座り込んで、もじもじぴるぴる、しきりに尾羽を振って身を捩る。
そうして、やがて、決心がついたのか。
顔を上げると、彼に向かって両手を伸べた。

……が。
彼の呟きを聞きつければ、ふと動きを止めて。
考え込むようなそぶりがひとつ。
やがて開いた唇から漏れたのは。

昔どこかで聞いたような童謡だった…。

楽しそうに笑う彼女の姿に、己も口端をにんまり持ち上げて笑う。
旅も長くなれば人と話す機会も増え、やり取りも数え切れぬほどしてきた記憶はあるけれど、
彼女の言う通り、それを何度ももしたかと問われれば——首を横に振るだろう。

ごくり。
肉だ野菜だの話を聞いて、同じタイミングで、口の中に溢れた涎を飲みこんだ。

しみじみ。

それは観光と言うより、必要があって進攻しているのだが。
ぱちりと瞬きを落としつつ、傍らの彼女へと視線を落とし。小首を傾いで。

言いながら、一歩前に出、黒く鋭く伸びる爪を振って笑った。

鞄から飛び出してきたエンブリオが、くるくると回る。
回る。
回る。
２人の周りをひと回りするたび、翠の風のように透き通ったその姿が、少しずつ伸びてくる。
まるで影のように、長く、長く。
風が吹き上がる。
髪を揺らす。
ケープが巻き上がる。
たまご色の羽毛があたりに散った。
２人に並ぶように、いつの間にか並ぶ影があった。