露店が多く並ぶ一角。
食べ物を売っていたり、アクセサリーを扱っていたり、曲芸をやっていたりと様々でごったではあるが、それが人を集め大変賑わっている。
小さなお祭りのようだ。
人も多く、その種族や年齢も様々。友達同士や家族連れだと思われる人たちが思い思いに楽しんでいる。
その中を私と兄さんは進んでいく。
結局、何の手がかりもないなら占い屋に行ってみようということになった。
占い自体をそんなに過大も過小も評価しない私にとっては何かの取っ掛かりになれば程度ではある。
少し前を歩く兄さんの背中を追うように進んでいく。
小さな体になって困る事は多いが、人が多い場所もその一つだ。
人の波を掻き分けるどころか呑まれそうになる。歩幅も小さくなっているせいで場合によっては小走りでついていかないといけない。
元の感覚でいると色んなところで弊害が出てくる。
今回の現象の究明も急がないといけないが、この小さくなってしまった事も早く手がかりを見つけないと……。
その為にはあの人の行方も探らないといけないのか。思わずため息が漏れそうになった時、何かが体にぶつかった。

「おお、すまないねお嬢ちゃん」

恰幅の良い男性が笑顔で頭を下げる。

「こちらこそ、ボーっとしてて」

こちらも謝ると男性は軽く会釈をして去っていった。
ただでさえ人の多いところが苦手なのに考え事していたら迷子に……。

「……あれ？」

そんなことを考えていたら兄さんがいない？
慌てて周りを見てみるが流れていく人の中に兄さんを見つけることができない。

気づかずに先に進んでしまったのだろうか。通りの端に寄ってとりあえず人の流れから抜けないと、私自身も流されていきかねない。
とりあえず移動しようと動き始めた時に腕を掴まれた。
突然のことに驚き、硬直してしまう。それを知ってか知らずか、掴んだ誰かは力強く私を引っ張り、脇へと導いていく。

人の波から抜け、思わず止めていた息が思い出したかのように漏れた。

「大丈夫か？」

腕を引っ張った人物、兄さんはやれやれといった顔をしている。

「ありがとう」

「いや、こっちこそすまん。気づいたらお前がいなくてびっくりした」

すぐに見つけられて良かったよ、と兄さんは笑う。

「しかし、何か催しものでもあるのか？さっき来た時より人が多くなってるな」

「うーん、どうでしょう。私は聞いてはないですね」

確かに露店通りだと言っても人の数や流れが普段からこんな状態だとは思えない。人々はまるで共通の場所を目指すかのように進んでいる。

「確かもう少しでつくと思うんだが……どうする？」

そう兄さんが問う。恐らくこの人ごみの中を歩く私を気遣っての発言だと思う。

「もう少しなら行きましょう。ここまで来たんだし」

このまま帰るとしても、この流れに逆らうことになる。それはやっぱり容易ではないだろうし、変な意地もあった。

「そうだな。よし、行くか」

覚悟を決めた様子の兄さんがそう言いながら右手を差し出してくる。
それを呆然と見て、しばらくした後、兄さんの顔を見た。

「何ですか？」

「何ですか、も何も。このまま進んだらまたはぐれるかもしれないだろ？手を繋いでたらその問題もないかな、と」

「……なッ！」

言葉の意味を理解して思わず半歩下がる。
何をしれっと言っくるんですか、この人！

その様子を見た兄さんが首を傾げる。

「何か問題あるか、みたいな顔をしないでください！は、恥ずかしいんですッ！」

そう口にしただけで顔が熱くなるのを感じた。
その恥ずかしさにはいろんな意味が混ざり合ってるのだけれど、どれもが拒否するだけのものがある。

兄さんは困った顔をし、

「でも、このままここで待ち続けるのもなんだしな……」

そう言ってちらりと視線を横に投げる。
そこにはこちらをちらちらと見ている露店主がいた。
私と視線が合うと、彼はわざとらしく明後日の方向を向いた。
確かに、ここに長居するのも営業妨害になるかもしれないし、意味深な視線で見られるのも精神的によろしくない。

心の中で盛大な葛藤が起きる。

色んなことを考えては消して、決意しようとしてやっぱりやめてをしばらく繰り返す。

長考の末に何かが吹っ切れた。いや、わざと吹っ切った。

よし、あくまで平常心で。これは必要なことなんだ。

「わ、わかりましちゃ！」

噛んだ！どもった上に噛んだ！
顔がさらに熱くなる。

こんな時は——！

「……こほん。わかりました。仕方ありません、ね」

仕切り直すのが一番です。うん、今度は問題ありませんね。
左手を差し出す。震えないかどうか、を考える前に心臓の早鐘が大きくて聞こえてないかどうかを心配してしまう。

兄さんはそんな私を見て、ふっと柔らかく笑うと私の手をとる。
その手は元の彼のものより小さくなっていても、私にとっては大きく、柔らかなものだった。