「ぐぅ…あぁ……！」
　漏れ出す声は人より獣に近かった。
　彼は地面に布も張らずに横たわっていた、顔面には脂汗が浮かび、目と口は硬く閉じられ、歯ぎしりの音が耐えず聞こえる。
　身をよじる様は虫に近かった。
　痛みが体の大部分を支配し、我が物顔で駆け巡っている。
　テントの外部から音は聞こえてこない、昼夜問わず賑やかな印象のあるメルンテーゼだったが、それが一層彼の孤独感を高めていた。
　フィーナに秘密にしなければいけないことがいくつかあった。
　それは彼自身が決めたことで、いま感じている苦痛はその代償だ。
　食いしばった歯の間から唾液がこぼれ、生きているならば味わずに済む痛みが襲いかかる。
　生きたまま内蔵をひき肉にされ、すべての骨から肉を剥がされ、気絶だけは許されない。
　それでもこれは彼の意識を刈り取るための責めだった。
　僕は僕だ……！
　負けてたまるか。声には出せずとも深く誓う。朝になれば消えるのだからと。もうしばし、彼女に時間を与えたいと、耐えている。
　事実この責め苦は夜にだけ現れた。おそらくその方が意識を奪いやすく、その後の目的を達しやすいと考えたからだろう。
　僕がどれくらい抗うかは、考えずに。
　むしろ考える必要はないと思ったのかもしれない、他人に対して、このような責め苦を耐え続けるだけの理由なんてないと。
　口腔へと逆流した血液を地面にぶちまける、咳をするたび血を吐いて、原型のなくなった内臓が悲鳴を上げる。
　彼女には借りがある……。
　つなぎとめるように強く思う。拠り所はそんなこと。
　自らを体液で汚し果てたころ、わずかな光と共に朝がきた。
　死んでいてもおかしくない夜をこえて、彼は一歩も動けなかった。
　指を動かすのさえ億劫で、ただ回復を待つ。この体を使って事を成したいが為、責めが終わればすべては元に戻って行く。
　壮絶な笑みを浮かべ、彼は一本の線を引いた。今日でちょうど十本目。
　あと、どの程度もつのか。
　答えは出なかった。確かなことはあまり時間がないという事。
　彼女に時間を与えるためにも、少しでも早く伝えるべき事を伝えなくてはならないということだった。




　本当はこういう形じゃなくて、きっちり向かいあって話すべきことだし、僕もできればそうしたかった。
　でも、時間と状況がそれを許してくれなかった、悪いとは思うけれど、この手紙という形で許して欲しい。


　最初に君がおかれている状況について。
　奴らは君の処理に悩んだ末、いくつかの想定をしてメルンテーゼへと送り込んだ。
　そのうちの一つ、「反逆の意思は不明だが、ネクターやエンブリオによる力が危険と判断される」おそらく君はこれに当てはまった。
　そして僕の身体にかけられた魔法が君を処分せよと十日と少し前から僕を蝕んでいる。
　なんとか抗い続けているけれど、日を追うごとに悪化していっている。
　もうあまり時間がないと思う。



　次に奴らが君の処理に困った理由について。
　君の師匠が数多の同胞を殺し、最期に至るまでにも大きな被害をもたらした。これは知っていると思う。
　その後君たちの道場は調べられたけど、彼女が子供達に何らかの影響を与えたのだという証拠は一切でてこなかった。
　君が怪しいとは踏んでいたらしいけど。
　彼女の門下であったということ、奴らも被害を受けていたということ。
　さらに、君がどの段階にいるか。二つの魔法を受けたのか、一つだけだったのか、両方ともに抗ったのか。それがわからなかったため、決定的な手出しはできなかった。
　奴らにとって魔法を使える人材は貴重だからね。
　だからしばらく様子を見ることに決まった。そのしばらくの間、君は全く隙を見せなかったんだけどね。
　奴らは困った。こちらに被害は出したくないが踏み込む勇気もなかった。
　そんなところへ今回の一揆の話が飛び込んできた。
　メルンテーゼのことを調べ、これはいいと考えたはずだ。
　ネクターやエンブリオ。それを奪いさえすれば……。
　疲弊した世界はこれから疲弊していくであろう世界を狙うことに決めた。
　また、君を送り込んで、その正体を探ろうともした。もし、害をなす存在であるなら僕に処理させるつもりでね。
　その害をなすというのが厳しい定義でね、反逆の意思をもつ、大きな力を手に入れる。そのどちらか一つでもだめだと決めた。
　ちなみにどちらも満たさなかった場合は勝手にメルンテーゼで朽ちるだろうと考えていたみたいだ。
　君は危険と判断されるまでに強くなった。なんとかごまかしてはいたんだけれど。



　最後になぜ僕だったのか。現状を打破する為に君にして欲しいこと。
　監視係として同行させられたけれど、知っての通り僕はもともと革命軍の側だった。様々な魔法によって、飼いならされてはいるけれど。
　ただ、奴らは君が怖かった。正確には師匠の影を見ていたのだと思うけど。
　いきなり牙を剥かれたら、どうするのか。その答えは単純なもので、彼女に負けない人間を送るということだった。
　現状を打破する方法を教えよう。
　限界といえど僕は今少し、自分の中の魔に抗うことができる。
　君が覚悟を決め、それをする間ぐらいは、身体を動かさずにいられるはずだ。
　君には僕の首を刎ねてもらいたい。


　君の師匠の命を奪ったのは、僕だ。だから君には僕を殺す義務がある。



　水深の浅い水場が延々と広がっていた、足を濡らさず歩ける地面は白くざらざらとしていて、岩を削ったように見える。
　特徴的なのは、同じ岩を削って作られたと思われる女神像が水場に立てられていることであり、微笑を浮かべながらもどこか憂いを抱いたような表情で訪れるものを迎えていた。
　女神の園と誰かが呼んだのを聞いて、そう聞くとこの女神像が一帯を支配しているように見えるから不思議なものだ。
　彼女は濡れるのもいとわず水面へと跳ぶ、だがふくらはぎまで濡らす水は、足の裏さえも濡らせず、わずかに水面を揺らすだけだった。
　右足、左足。水の上を跳ねながら進んでいく、走るというよりも水切りのごとく水場を渡っていく。

　自ら発する光で空中に軌跡を描きながら、彼女。シェイミーは弱く息を吐いた。
　首を振って周囲を確認し、不満げに首を傾げるとまた移動を始める。
　その動きには多少の疲労が感じられたが、本来疲れるほどのものではなく、どちらかといえば精神的な疲れのように見えた。

　探している人物を思う、朝食の時間になっても彼女は姿をあらわさなかった。
　いつものように朝早くテントを抜け出し鍛錬へと向かったのだと考えていたし今でもそう考えている。昨日の段階で特別変わった様子も無かった。しかし今考えればすこしぐらい様子がおかしいほうが自然だったのではないかと思ってしまう。
　仇がすぐそばにいたのだ。しかもその仇は不可解な手紙を残し、彼女を助けようとしたような記述にそれを肯定する状況をも残していた。

　事の真相を見極めるため、直接会いに行った。そんなことをしないと言い切れないのが怖いところで、彼女の足を急がせる。
　それでも近場から、自分ひとりで探し始めたのは、信頼の現われだった。だからこそ

　どこかのんきなその声を聞いたとき、怒るより先に嬉しさと安心を感じた。
　フィーナはシェイミーと同じように水面に浮くように立っていた。表情は何でここに？　と言っているように見え、探されている自覚が無いのだとわかった。
　水面を軽く蹴って目の前に立つ、意識せず強く踏み出したのかしぶきが高く上った。

　そういって頭を下げ

　大きな思い切りのいいため息を誘発する。

　言いながら出された手を握り返して、大丈夫、どこにも行かないよ。と言うと

　わりと容赦の無い電撃が彼女の体を貫いた。

　ため息を大きく一つ、立ち止まって彼女の腕を取り起き上がらせる、身長に差があるため最後は跳ね起きるような形になった。

　しみじみといって、こほん。と咳払い、そんなことより。と

　命を奪う選択をするはずがないと思っていた。
　普段の彼女から考えれば間違いなくそういう道を選ぶだろうと。
　それでも悩んだ。

　あまり聞かれたくないことを聞かれた、そういう顔をして彼女は考えを言葉に代えていく

　心のそこから納得したという表情ではなかったが、そういって彼女は頷いた。

　振り返る徒歩を進める、話し込んだ分ペースはこれまでより大分速い。

　彼女の合図で走り出す、静かな水辺は、彼女等が通り過ぎる一瞬だけ騒がしくなり、すぐさま静寂を取り戻す。
　わずかな力では何も変わらないと訴えかけているかのようだった。

　話慣れてきたのか、若干フランクな口調になってきた

　もっとも常に気を張り続けることが不可能なのも現実だ。
　忠告は忠告として頭にとどめておく。

判ってる、と彼女の言葉に応じて頷きながらほんのり照れたように笑った。

急かすつもりなんてなく、緩く頷いて
のんびりと考える姿を横に吹き始めた風を心地よく受ける。

ちょっとおもしろそうな声が零れた。

何の意味も無く胸を張った。

＞前回分！

氷をがりがりしてるフィーナさんの方を向き

早速ストローで飲み始めて少しして……

幸せそうに少し休憩！

ゆっくりと顔に手を伸ばし、口の中に引っ掛けるようにか細い人指し指を滑り込ませます……

意外なぐらいにあっさりと離し、ついさっきまで滑り込ませていた人差し指をペロリと舐めると、もう片方の手で恋人つなぎをするようにミィニィさんの手を取りました。

そして密着するぐらいに体を寄せると、近くにあった簡易テントに向かって歩き出そうとします……

ジェイクさんとサーリャさんを見てちょっと怯えながら仲裁に入り！

一口飲んですぐに軽く休憩し……

冷や汗を軽くぬぐってから微笑み……

チラリとフィニーさんの方を確認すると、口元に薄く笑みを浮かべ、仄かなライバル心のようなものを心にともしながらもあくまで自分の作業を確実に、そして優雅にこなし続けます！

自身ありげな笑みとともに発せられた言葉を聞いても尚薄く笑い……

綺麗にお辞儀した後、片足をトントン(音はドンドン)させながらフィーナさんにぎこちなく微笑みかけます……

近くのテントに入って色々準備してたけど……

突然悲鳴が！

剣を抜く、二度三度と素振りをして、目を瞑ると彼女の周囲に光が集まり、衣装を変化させていく

数度、電気が流れたような音がして、ふよふよと鞘に収まったままの剣が彼女の周囲を囲むように浮いた