一閃したレイピアの剣呑な光から距離を置き、睨みあいに入る。
　こうなると薄らわかっていたとはいえ、やれやれという気持ちになってくるのは、人情に加算されるだろうか。

「僕、この暑苦しい人達に、シャーベットで出来たハンバーグ食べさせたかった」
「湯気に見せかけて冷気ですね」

　指揮棒を手にした少女の呟きに、よくわかりますと深く頷く。
　自分も、あの金髪の男に追われているらしい相手への同情心に、修復不可能なひびが入ったところだ。シャーベットハンバーグにかけたらとどめになる調味料は何か、時間さえあれば真剣に検討したい。

「あの人、冷気使いなんだっけ」
「そう聞いています。炎と氷、対極だそうですよ」
「……まとめて冷気で潰してもいいかな？」
「多少威力は落ちるかもしれませんが、問題ないと思います。僕も、ある程度叩き込んだら水と氷を使うつもりですから」

　足元近くで目を光らせる仔虎を意識し、六色で彩られた十二の方位を脳裏に浮かべる。
　弱点とされる元素での攻撃は、自分にとって辛うじて『得意分野』といえるものだ。あらゆるものがエンブリオに起因する以上、多かれ少なかれ被りが出る中、出てきた特色だ。はっきり言って、単なる偶然だが。
　逆に、共通する得意分野を重ねることも、よく採られる戦術だ。この少女とはまさに、闇と氷という分野で共通点がある。
　初手ならば自分も火力を期待出来ることから、より氷が効果的な相手を残すべきか。

「初手は後押しのアンサンブル。そこから、最大で行くね」
「心強いです」

　スレイプニルの後押しを得てから、何度か試行錯誤しているが、さすがにまだ呼吸が掴めない。
　更に、武器の優先順位を少し変えたことで、威力そのものにも大きな幅が出ているのが、少し不安でもあった。

「最近どうも、攻撃の威力が正確に掴めません。拍子抜けするほどよく通ったり、想像より長引いたりと。……恐らく、相手の性質に大きく左右されていると思うのですが」
「ラザラスって結構おおざっぱなとこあるもんね。調味料とか、割とカンで入れるでしょ」
「食堂時代の癖が抜けないようです」

　昔に比べて性格は変わった筈だが、意外と根っこは変わらないのか。あるいは、あまりにも普通の生活から逸脱した為に、昔よりもっと大雑把になってしまったのか。今の保護者の影響か。……最後のひとつは、何もかも納得してしまいそうなので、あまり考えたくない。

「とりあえず、攻撃は最大の防御、というのが、あちらの主張のようです」
「カルシウム足りてないなあ」

　相手の構えをつぶさに見てとり——背中を押す駿馬へと、加護を呼びかけた。
　癒しと共に、思考と身体を切り離して過去にする、世界の果ての風を。