遠い会話を思い出す。
遠く、遠く。
気が遠くなる程のそれは、意味は判らなかったけれど。
ただ、心地よいものではなくて、優しいものでもなくて、
触れていたくないと、それだけを思った。

尖った声と、縮こまった声があったっけ。
あの縮こまった声は、尖った声にも、縮こまった声の半分の背丈しかないあたしにも。
いつも、ずっとすまなそうだった。




「ラズ、お茶頂戴」
「…はい。座っていてくださったら持っていきますが」
「いいの。喉乾いちゃって早く飲みたいのよ」
「今朝淹れた分の残りならすぐ出せます。冷めて香りも飛んでいますが」
「それでいい」
「はい」

少しだけ、気遣わしげな視線が飛んできた気がする。
それでも、余計な詮索をしないでくれるのは正直なところ有難い。


只管に続く廊下を思い出す。
閉じ込めるような壁を思い出す。
隠れる場所のない其処は、唯息苦しい。

胸の底のあたりが、酷くざわつく。
器に注がれ差し出されたぬるい茶を一気に流し込む。

ざわつきが、ほんの少しだけこそげ落ちた気がした。

ふわり、応じるように心地よい風が背を押した。