奇妙な埃臭さがあった。たしかに人の住まう場所には違いなかった、床をゆく絨毯はあちこちに足痕を残し、壁の燭台はほんの数刻前に替えられたかのようにあかあかと幼かった。いくらかは掃除もされているのに違いなかった……にもかかわらず、その大廊下、城内を真っすぐに延びる大廊下にはある種の絶滅の気配が、既に決定的ななにかが過ぎ去り、あとに遺された具象が亡骸として残存し続けているような、打ち棄てられた建物に似たあの不在さがあった。絨毯を沈み込ませる足痕に人のものは明らかに少なかった、あるものには蹄があり、またあるものには爪があり、またあるものはまりに巨大で、それとも小さすぎた。靴はほとんどない……その奇妙な偏りは否応なく石を掘り起こされた壁の装飾を思わせた。異形の王と、それに跪く幾人もの民たち。時流を正しく移しくとって旧びながら、なにかの損ねられてあることをそのちぐはぐな情景が語っていた。……

美の名のもとに逆立がさらされた芸術は拭いがたいひとつの筋書きを指し示していた。すなわち異形としての王……敷衍するなら、亜人としてのエンブリオたちの主としての王。庭を手入れしていた小人の訛りがちな言葉を思い出す、王は彼らの希望と、その小人は言っていたのだった。するとネクターは？　この革命の引き金になったかの愚策が募り集めようとしたネクターは……それはことによると異形者たる王の存命のためであるのかも知れなかった。人間としての外観を諦めるほどに、エンブリオに毒された、あるいはエンブリオそれ自身である、病巣としての王。そうであるなら大量のネクターの所望もゆえないことではなかった。

廊下はどこまでも広く長く続き、可笑しなことにどこまで続いているかの先の眺めさえ杳として知れなかった。それゆえ廊下は廊下であるというより、魔獣の胃の奥へと伸びていく長い喉、食道、地獄への片道を思わせた。……早すぎるかも知れない、と、廊下のあちこちに据えられた彫像を見ながら私は感じていた。私たちはあまりにパラダイスについて、その実情について無知のまま、そうした食道を滑り落ちようとしていたのだった。……