「でも彼女も随分と感情を見せるようになったんだねえ」

薄桜色の髪を揺らして、フォッセグリムのヴィティスが笑う。
先日のラズロという司教に勝てずに、口角の上がった、
笑っているような表情は常と変らぬものの、疲れが取れきれぬのか顔色はいつもよりも良くない。
落ち込んでいる気配もまた、付き合いが長くなれば気づくだろうし、司教に立ち向かうとなった時の、あの強い意志。
自分が知ってた頃はあそこまでじゃなかったけれどなあと視線の先の娘を見て笑う。
野営の準備でもしているのか、気づく気配はない。

「そんなに昔は違ったんですか」

「うん。まあ僕は契約もしてなかったし常にいたわけじゃないけれどね」

この場において契約主を過去知る者は、ヴィティスとハルニレのみだ。
昔を懐かしむように、けれどそれだけではない楽しそうな、興味深そうな声を出すヴィティスに問いかける。
頭の固いルアルにとって、物腰は柔らかだが、どこか掴みどころのないヴィティスは
進んでコミュニケーションをとる対象ではなかった。
それでもその話には興味があると、やむを得ないという様子で視線を向ける。
ゆっくりと足を組み換え、頬杖をついて笑う。青年。
笑いを含んだ声が、響く。

「まあ別に悪い事じゃないよ勿論。だって、さ——」



言葉の、視線の向こうで娘が口元をおさえ、何かを振り切るように頭を緩く振る。
やはりよくない顔色が、言葉を聞いて目を開いた紅色の瞳にうつる。

御伽噺のように上手くいくことは、あんまりないから気を付けろよ、と念を押すような口調で言った。

あなたの悲しそうな顔に動揺し、すぐに謝罪した。

気分を害したわけではない、という部分を殊更強調した。

どこか観念したような顔で、右手を差し出した。
握手のつもりだろうが、触るチャンスと言えばチャンスである。

俺は練習台として適当ではないだろうけど、助力するよと笑った。

嬉しそうに、においをかぐように鼻先を手の平に押し付けた。

バッ！と高らかにジャンプし土下座の態勢を——とろうとしたが、
頭のアフロにより邪魔され、びょん！とバネのように跳ねてその勢いで縦に三回転。そして背中から落ちた。

言って、不安そうに見上げるヨドを宥めるように撫でた。

回っている、との言葉を受けてクマちゃんがまた尻尾の頭をがしっと掴んだ。
今度ばかりは抵抗しているようで、力が拮抗しているのかぷるぷるとその場で震えている。