先日八つ当たりついでに叩き潰したエンブリオ。ユニコーンの角の一部を片手で弄びながら、百日紅は思案する。

「……使いたないけど、便利やっちゅーしな」

　他のエンブリオのように、実体として傍にいるのを許すほどには、あの馬に寛容になる気はない。
　どうせこの身はあの駄馬に好かれるような純性など持ち合わせてはいないのだ。厄介な存在をいちいち許容する気にはなれない。
　だからと言って、サクロのようにソレを食して己の中に取り込んで活用する、なんてことはもっと出来ないのだ。
　既にこの身体は、『二人分』でいっぱいいっぱい。
　ここから更に、他の異物を受け入れるなど、無理な話だ。

「せやけど、しゃーないんかね……」

　嘆息しながら、針を加工させるための職人を呼ぶ声には、隠しきれない嫌気が滲んでいた。

部下を下がらせ、エンブリオとも距離を離して予測される場所で一人佇み、トキサメが現れるのを待つ。
普段浮かべている微笑みも消し、手元の扇子をゆらゆらと揺らして。
ふと、人の気配を感じて袖口に手を入れると、小さな白い針を取り出した。

呟いて、白い針を無表情でゆっくりと右手首の血管の上から差し込む。

ユニコーンの角を削って作った針がゆっくりと形がなくなって己に溶け込むのを感じながら、嫌そうに毒を吐き。