枯れた土地での敵襲を退けたものの勝利の余韻に浸ることなく、変わらぬ調子で前進する男の後を追って、エンブリオ達に続いて銀髪の少女がついていく…というのが、いつもの光景だった。

　だが、今回はその様に変化が見られたのである。銀髪の少女は先の同行者であった一人…後背で髪を三つ編と、手に持つ鎌が特徴的な少女に一つの武器を依頼していたのである。

　別れ際に渡された一振りは、不慣れな者が使っても補佐してくれるよう誂えられた実に見事な出来栄えの代物であった。

　鞘から恐る恐る取り出してみて、刃が照らす輝きに思わず目を細めたりする場面もあったが、それでも気後れしないようにと確りを眦を引き締めれば、物は試しにと手近な物に向かって放り投げてみた。

　ピクシーのグラナやサラマンダーのルイが傍に居るのは知っていたが、彼らは基本的に余り喋らないため、気配はすれど声を掛けられるとは予想もしていなかったのだろう…声にも鳴らない驚きの声を上げて声音の主を探して見れば、そこには先日エンブリオ契約をしたばかりのポーンたるヴァランセが居たのだった。

　どう言い繕うか、或いは誤魔化そうかと思案めいていると、ヴァランセは銀髪の少女の傍らに立つと、身振り手振りを交えながら手にする武器たる刃の使い方について指導をし始めたのである。
　これにはさしもの少女も呆気に取られていたが、相手の顔が真剣だと分かれば、先ほどまで浮かんでいた釈明はどこへやら、熱心に教えを受け多少の改善を見せ始めた所で、一端レクチャーは中断を迎えたのだった。

　礼を言う少女に対し、兵士たるヴァランセは主のためならば、と胸に手をやっていたりする光景も見られたが、迎えに来た砂袋を担いだ男はそんな二人（＋ピクシーとサラマンダー）を訝るように首を傾げて見せたのだった。

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　先を行く男を追いかける傍ら、先ほどのやりとりについて説明をする銀髪の少女に対し、いつも面倒そうにしている男は、意外にも分かったと一つ頷くと、男に対し助け舟を出してくれるとさえ口にしたのだった。

　嘆息とも脱力とも一息漏らした後に、改めて砂袋を担いだ男に礼を言えば、遅れを取り戻すべくペースをあげていった。砂地が目立つ枯れた土地を抜けて、進んでいく先に見えてきたのは人住まいと思しき建物郡に、所謂下着が数多く干されているという何とも生活臭が溢れるものが視界に飛び込んできたのである。

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　銀髪の少女達がたどり着いた時には、先を行く男はすでに戦闘へと突入していた。怪しげな色香を漂わせる蛇を纏った女に、形状し難い男らしき姿と、帽子と髭面が特徴的な男、それに多くの蛇の頭を従えた生命体２つの敵影が今度の襲撃者だったようだ。

　序盤から猛攻が飛び交う中、後方で様子を見守りながら、緊張感に欠けるやり取りをしていると、少し気持ちも落ち着いてきたのだろう。改めて祖父たる男を見やれば、今度も何人かの同行者を頼っているようだった。

　一人目は、何時ぞや山岳で同道したことのある桃金髪が目にも映える少女…手にする代物が槌ではなく刃に代わっていたのは奇妙な偶然か。
　二人目は、うねるような銀髪と長い槍を携えた女性。
　三人目は、ついこの間も同道だった淡いピンクの髪をした少女

　レプラコーンに次いでリリスが倒れ、数の優位が逆転すれば後は消化試合にも等しい戦いの流れとなった。そんな折、祖父の目が一度、自分に向けられたような気がして、銀髪の少女は言いようのない不安に駆られることとなった。

　間もなく戦いに決着がつき、各々がエンブリオ契約を進めたり何かないか探索をしていたりする中、男は少女に向かって厳かに言い放ったのだった。

　普段のそれとはまた異質のプレッシャーを感じ、意味のない音が漏れ出るに留まる銀髪の少女。それを反論できないと取ったか次いで言葉を続けようとした所で、軽い口調の声がそれを遮ったのである。

　答えに窮し、体を震わせる少女に対し、男は黙々とヒュドラとの契約を進めるべく、この場から離れていった。

　気持ちが昂って目の端に光るものを見せる少女に向かって、砂袋を抱えた男はこうも続けたのである。

　長々と一度息を漏らした後に、銀髪の少女は首を立てに頷けば新たに加わったヒュドラと共に、今また先を行く男の後を追うべく歩を進めることにしたのだった。。。