ウィルは、ただの不死者ではない。

その本質は、永久機関の断片だ。エネルギーを自己生成し、循環させることができる。
身体を欠損しても修復するし、粉々に消し飛んでも修復する。食事は摂っているが、なくても活動はできるし、睡眠も必要としない。
と、いうよりも。
彼女は不死者となって以来、睡眠をとることができなかった。

愛する人ができたとしても、彼女だけは歳をとることができないし、同じ時間の中ですら、一緒に夜を過ごせない。
その重荷ゆえに、新しいパートナーと婚姻を結び、ウィルが欲したものは、あまりにも大きな束縛だった。

その願いは、彼を大いに悩ませた。願いを聞き入れるということは、代々受け継がれた家を断絶させることに他ならない。
彼は七日間、考える時間が欲しいと言った。
そして、七日後は、訪れなかった。

離別は想像よりも遥かに早く、人の命はとても儚い。
彼は事故で、あっさりと命を絶たれた。



……彼女の心は、どんどんと汚れていった。魂は、黒く濁っていた。
命の巡りが淀んだ器は、いくつかの現象を引き起こした。

不幸が、訪れやすくなった。
たとえば、予期せぬ死に巻き込まれたり、予期せぬ死に立ち会ったり……最愛の人が、亡くなったり。

心身に、痛みを感じなくなった。
喉を貫くことに苦痛を覚えなくなった。軽い快感すら覚えるように。

魔術が、使えるようになった。
魔術の素養のない彼女が、人を越えた力を得て、超常的な現象を引き起こせるように。

彼女の身体は、魔女へと変容していた。



さらに刻は過ぎた。
戦争が始まり、故郷は敗戦国となる。

組織が滅ぶのを見てきた。
人々が死んでいくのを見てきた。
そしてとうとう、国の滅びにまで立ち会ってしまったのだ。

ウィルは、故郷に別れを告げた。
侵略者による蹂躙が始まる前に、研究所のゲートから、外の世界へと飛び出す。

そして辿り着いた新たな世界は、前の世界と打って変わって、文明の遅れた、野蛮な世界だった。
彼女の身体を知る者は誰もいない。人と関わる前に、人を避けた。
人の寄り付かない山奥を栖とし、再び、誰にも知られずにひっそりと喉を穿ち続ける日だ。

誰にも相談する気もなかった。戸籍に悩まされるほど進んだ世界でもなかった。
すまいは電気も水もない寂れた空き家。食べるものもなく、週に一度ほど、思い出したように川へ入り水を浴びる。
外では土が、おびただしい量の血を吸っている。
刃物の質も悪く、一回では死ねない事も多かった。
ピアノも、錬金術も、文明のない世界では全く意味の為さない趣味。
ウィルには、何もなかった。
何をするでもなく、ただ亡霊のように空き家を徘徊し、思い出したように服を脱ぎ外へ出て自害をする。

人と関わりたくはなかった。人への興味も、世界への興味ももはやなく、
面倒な事と悲しい事ばかりが待っていると知っていたから。

しかし彼女は、寂しさだけは誤魔化すことができなかった。

たまに、人里へ降りるようになった。
それなりに活気のある街。並ぶ石造りのシンプルな建物。
出店で肉や果実、水などを物々交換する人々。
彼らは、布を身体に巻きつけたような格好をしていた。
身分の低い者の中には、服を着ていない者もいた。
人々の姿形はウィルとさして変わりなく、彼女を気に留めるものは居なかった。
声をかけてくる男たちについていくと、路地裏に連れ込まれて、食べ物などを恵んでもらえた。
言葉がなくても通じる言語で語り合うのが楽しくて、ウィルは頻繁に色々な街へと顔を出すようになった。

渡り歩いて数十年。言葉を学び、街に腰をおろす。
年下だと思われているためか、世話を見てもらえることが多かった。
親切な男に真剣に口説かれたりもするが、ウィルの心はもう動かされなかった。

身体の事を気づかれる前に、また別の世界へ飛ぶことにした。
この世界では、悪魔と恐れられるか、神と崇められるのがオチだ。

時空の歪みを観測し、再び別の世界へと飛び込む。

ここから更に数百年。
彼女は転々と世界を渡り歩きながら、人と触れたり離れたりを繰り返していった。

物事は覚えるより忘れるほうが容易で。
永い人生も一瞬で過ぎ、積み重なるものは何もなく。

存在こそ仙人のようなものだが、彼女は何も極めることなく、何も成長することなく、
ただただ、其処に居るだけの虚ろな魂の器だった。
彼女はいつからか、本当の名前を名乗ることをやめた。

相手が身体を密着させてことに耳まで赤くして何が起こったのかわからない顔。

無理矢理なにかを思い出そうというように、むむむ、と唸って。

いっちょ産んでったげよう、とか言われて、ポカンとなるアムル。

なんか超産んでる。

というか、いくらなんでもお腹が膨らむのが早すぎる。
人間という種がこんなに早く・・・速く出産をするなんて知識にもなかった。

普通はもっとゆっくりのはず、ホントにこれは人間の出産と同じものなのかと混乱する。
そもそもお腹を突き破るどころか、もうこれは爆発といってもいい。

どうみても・・・

・・・どう見ても、イルさんが話の通りに人間なら助からない。

そう判断して、生まれてきた塊を抱き上げようとします。

恐れをそのまま怒りに変えるかのように目を見開いて、目の前の相手を睨みつける。

首輪を離し、両手で構えた銃で、もう一度頭の正面に向けて引き金を引いた。

なにやら怯えきった様子のカカに促され、
その場を離れるべく、気配を気にしながら走りだす。

近づいて来たキミに少し後ずさりする。吐息が掛かる距離でも、しかし彼女は目を話そうとしない。

同情するそぶりなど微塵にも見せず、ただ冷淡に言い放つ。

即答。
建前も何もなく、ただ在りのままの事を述べた。

目の前の男は立ち上がったと思うと、今度はコートが体に吸い込まれるように消える。
鍛え上げられた肉体が、露になった。

左目に石を嵌め直して。

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何か用事とか手伝いとかあるかな？というふうな視線を送る。

これはひどい関係である。

「エッチ」の意味を理解できていないようだ。