足音を響かせて巨体が荒野の向こうへと去っていく。
彼は何処から来て何処へ行くのだろう。


地下水路への入り口を確認したことにより、この辺りの探索の目標は達した。
新たな道を行く前に、片付けてしまわなくてはいけない事案もある。
手分けし、協力し、取引することで王城に続くいくつかの道を得ていた。

地下牢にはまだ未探索領域が在り、逃走したラズロ司祭の足取りも掴めてはいない。
大廊下にはまだ足がかりを得ただけ。
女神の園は二人組が道を塞いでいる。

この中で、優先して進めておくべきは女神の園からの進攻ルートの確保であろう。
その為の障害を排除しなくてはならない。
二人組はその出で立ちから、何処かの騎士かとも推測はされているが未だ不明。
氷を繰る女と、炎の槍の使い手。
相当の手練であることは女神の園を探索している者たちの噂になっていた。



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戦いを経て、ネクターを得ることでミチエの力飛躍的に向上している。
同時に、エンブリオの力も相当に高まっている。
それは、肉体の支配権を巡る争いの激化も意味していた。

ふたつの意志がぶつかりあい、力で力をねじ伏せる。
ミチエはその争いを意志の力で制することにより、己が上位であり続けた。
しかし日々繰り返す衝突により少しずつ、擦り切れていっていた。
魂の輪郭がぼやけていっていた。

リンテントポーゼ領内で、自警団の隊長として暮らしている分にはそこまでの影響は無かった。
この数年はそれなりにどうにか肉体の同居人である悪魔ともつき合えていた。

一揆に参加することで日頃とは比べ物にならないネクターを略奪することが出来る。
そして王の軍隊や魔物と渡り合うためにはそれを吸引して力と成す必要があった。
ただ生きていくだけなら不必要と言える量のネクターを。
そうして得た力で魔物を倒し、次々とエンブリオとして取り込んで力と成していく。
その急速な変化が綱渡りのようなバランスを大きく乱していた。
波風立つことも少ない穏やかな池が、荒れた海の様相に変化していた。
荒れた洋上を女面鳥身の怪異がけたたましく鳴き、更に煽っている。


リンテントポーゼの魔女。

ミチエーリ・G・ガルテンジアの半身は悪魔のそれであった。
欠けた肉体を悪魔で繋ぎ、埋め合わせた歪な身体。
それは元の肉体を侵蝕し、再生された組織とも渾然となり最早、その境目も曖昧になっていた。
エンブリオたちとの同調を深めることにより、その身に流れる血も変質していった。
血潮とネクターの蜜の入り交じった、甘く猛き毒に。

魔力を帯びた強靭な肉体を、強化された血液で駆動せしめる。必然の変化ではあった。
しかしそれは人間から乖離していくものだ。人間から魔女へ。魔女から、魔物へ。
今の彼女に理性を除けばとれだけの人間性が残されているだろうか。
その理性も悪魔の強い闘争心に、衝動に押されて着実に侵蝕されていっている。
闘いが、殺し合いが手段ではなく目的にすり替わりつつあった。


ミチエは気の強い女ではあった。
けれども、刃を以て戦えるような女ではなかった。
あの日までは。

寂しげに目を伏せ。