また、意識が闇へと堕ちてゆく。

夫を亡くしたトラウマは、確実にウィルの精神を蝕んでいた。
彼女の行動は日に日に不安定になり、ついには研究所の地下へと幽閉された。
研究と死の毎日。終わることのない痛みと恐怖。

彼女は、死に続けた。

1日目は、抗った。

2日目には、復讐を決意した。

3日目には、逃げる手段を考え、

7日目には、気力も折れ、

30日目には、ただ救われる日を待ち望み、

100日目には、すべてを諦め、

365日、休みなく。

それは5年続き、

10年続き、

30年続いた。



彼女を外へと出したのは、劇的な事件でもなければ、誰かの救いの手でもない。
時代の変化による、組織の自然消滅であった。

研究所が取り壊される前日に、彼女は見知らぬ若い男によって解放された。

誰とも知らぬ男が、心当たりのない謝罪の文句を向けてくる。
ああ、そういえば、組織とはこういうものだったな、と彼女は思った。

ウィルが不死者になってから、30年。
彼女の姿は、若いままだった。

その30年は、彼女に何の成長も与えず。
彼女から全ての興味を奪い、人の心を奪い、知識を忘却の彼方へと追いやり、精神の衰退を与えた30年であった。

男は少しだけ考えた後に、目線も合わせず、ぽつりと呟いた。

尊敬の眼差しです。

カカの首輪を掴んで強く揺する。

理解できていない様子で、首を傾げ。

言いながら左手に取り出した刃物でヰルの喉元を掻き切る。
そのまま両手で持ち、水平に胸に突き立て、
柄が当たるまで刃をぐっと押し込むと、そのまま蹴り倒した。

蹴り倒したヰルから刃物を抜き取り、血を拭いながらいつものようににこりと微笑んだ。

攻撃を受けても大丈夫なのかと思いきやなんかすごく致命傷っぽい。
しかも治癒しないらしい。イグニは慌てるようにオロオロしはじめた。

そう言いながら、回復魔法的なものをかけつつ…
野菜ジュースをヰルの口にぶちこんだ！
実に酷い光景だがかなり回復力があるらしい。
効果があれば治癒ついでに健康的になるぞ！たぶん！

どこかわざとらしいヰルに、少し呆れたような表情をしながら、荷物を探っています。