突然のモノの提案。当然ネビュラもハイそーですかと納得できるはずもなく、質問を返す。

要は、「お前がいると邪魔だから危なくない仕事でもしてろ」ということである。

その言葉に、感情はない。ただ、「決定」が存在するのみである。

しかし、その言葉にも平然と、いつも通りあっけらかんとネビュラは返す。


それだけの事を話し合い、二人は道を分けた。


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ネビュラと別れたモノ。ネビュラの方を振り向くことすら無く、淡々と城内へ進む、進む。

モノは考える。マルチアイズの意思、モノアイズの意味。

マルチアイズは「万の眼」、モノアイズは「一の眼」。

つまり「モノアイズ」とは、モノたちの出身界「マルチアイズ」があらゆる世界に派遣している「観測機器」なのである。


彼らはそれだけのために生まれ、それだけのために死ぬ。

にも関わらず、なぜ自分の「オリジナル」であるネビュラは、観測と一切関係のない行動を取るのか？

それが、モノには理解できなかった。

その疑問を胸にしまい込み、モノは進む、進む。

途中眼に付いた「立入禁止」の看板を、武器で粉々にしながら。

その心に湧いた「何か」にも気づかぬまま。


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ネビュラもまた、別の方向へ進む、進む。

ただしそれは安全な敷地外ではなく、敷地内。つまり、モノの命令は完全無視である。

そうぼやくネビュラの足元に、影が走る。影は、ただそこに在る。陽光が当たっているにもかかわらず、そこに在った。

そう呟いたのも束の間、その影がネビュラの足元でごぼりと泡立つ。

ネビュラはそれに驚き、機敏な動作で後ろに飛び退いて位置を調整する。

そのネビュラの問いに答えることもなく、その影はただただそこに、殺意を撒き散らしながら在る。

否、これは殺気ではない。「狩人の気配」。『俺は狩人、貴様は餌』という意識。肉食動物などが放つ、ごくごく当然の気配なのだ。

では何故？何故この影はネビュラにそのような気配を向けているのか？

勿論、その疑念への答えを出すこともなく、影はその形を捻じ曲げてネビュラへと襲いかかる。

バギャァ！

その突撃をひょいと躱し、伸び上がった影に蹴りを叩き込む。

しかし、その影はピクリともしない。ダメージどころか、一切効果が見受けられない。

そして影はやにわに腕の形を取り、蹴りを放ったネビュラの足を掴む。すると、

ズズズズズ…！

喪失感。脱力感。虚脱感。

あらゆる「力が抜けていく感覚」が、まるで「体中の力を引きずり出されるような感覚」が、ネビュラを襲う。

無論、ネビュラも異常を感じる。感じるが早いか、もう片方の掴まれていない足で、その腕の形を思い切り蹴り飛ばす。

痛みを感じたかどうかは分からないが、腕はネビュラの足首を離し、ごぽごぽと影に沈んだ。


話は変わるが、ネビュラはこのメルンテーゼに「観測」の目的でやって来ている。

そして、ネビュラの眼は「観測」そのもの。その眼で見たあらゆる物を「理解」することが出来る。

もっとも、現在は力の一部を失っているため、全く知識がない生物に関しては、思考を読める程度だが。


話を戻すと、当然、この生物の考えていることも「理解」することが出来た。

ネビュラは、性格に似合わず比較的聡明である。この生物の「性質」を、いち早く理解できた。


この影は、「魔力を食う」、または「魔力を力にする」種族であり、それを本能として持っているということ。

そして、コイツだけなのか、それとも仲間が居て、そいつら全員がそうなのかは分からないが、エンブリオを襲っているということ。

そして、この世界においては「擬似エンブリオ」という性質を持っている自分を、食料と判断して襲ってきたということ。

そして当然、その黒い影の異変にも、気付くことが出来た。


がばりごぼりと、先ほどまでの泡立つ様子が一層激しくなり、その泡は古い泡が消える前に再び生まれ、

漆黒の泡の塊が立ち上がり立ち上り、その形を、まるで人のような姿に変えた。

そして、そのヒトガタの顔にあたる部分の泡がごぼごぼと左右に割れたかと思うと、そこから何かが現れた。

そう、その顔の中から現れたのは、仮面。

モチーフは「牙」と「眼」だろうか。とにかく、仮面舞踏会で付けて行くような、そんな華美なものではないことは確かだ。

その時だった。

ネビュラの耳に、何かが響く。それは声。ノイズだらけで殆ど内容はわからなかったが、とにかく声。

そして、その声の聞こえた方向に気を取られた瞬間、

ヒトガタは「もう貴様に用はない」と言わんばかりに、ネビュラに背を向けて逃げ出した。

そんなことを言っている間に、もうすでにヒトガタは消え失せ、辺りには静寂だけが残っていた。

頭を掻きむしり、イラつくネビュラ。しかし、「もしあそこで奴が逃げていなかったら、確実に吸い殺されていた」。

聡明であるがゆえに嫌でも理解できるその事実も、その苛立ちに拍車をかける。

無論、その問いに答える者は、誰もいない。唯一つ、手がかりがあるとすれば、


『この世界にローバルと言う、妖精やエンブリオたちの魔力を奪う生命体が———』


聞こえてくる、この声だけ。先ほどよりも集中して聞いているせいか、はっきりと内容がわかる。

そう考え、ネビュラは声の聞こえた方向へ歩き出した。

多分に、愚痴と恨み事を撒きながら。

ENo.178「黒谷シュウスケ」様より、『ローバル』の設定をお借りしました！ありがとうございます！

驚いた顔で反応したアムネジアの言葉を遮るように、慌てて答えるオルガ。
しかし後ろでヴォーグが右触手を上げている。

なんか名前が出てこないパターンです。

おそるおそる尋ねてきます。

べろんべろん、と聞いて、なんとも恥ずかしい気持ちになるアムルでした。

目の前に現れた巨大な鎧を、驚愕の表情で見上げていた青年。
ふと、なんだか見覚えのあるそのフォルムに怪訝げに眉根を寄せる。

記憶を手繰り寄せようとしたその時。
謝罪されてきょとんと目を丸くした。
何か自分はこの人物に迷惑をかけられた覚えがあっただろうか……？
そんな顔である。

その目の前に差し出されたのは見覚えのある品々だった。
自分がハロウィンの祭りの中で、渡した菓子だ。
同時に自分が鎧の人物とどういう関わりがあったのかまで芋蔓式に思い出し、目を丸くした。

手をつけていない様子の品に苦笑する青年。

なんで食べなかったのだろう。
そんな表情で、見上げてきている。

モノの背中にマウントされた板に描かれた眼が、敵をぎょろりと一瞥した…ような気がする。