「ねぇ、クレー。昨日、ビブさんに言われたこと覚えてる？」
「？ 青空研究室に遊びに来てって話？」

セチアが昨日のことを持ち出すなんて珍しい、と思った。いつも今日明日を楽しく生きられればいいと思っているような子で、明日のおやつが気になる事はあっても、昨日食べたおやつのことなんて忘れてしまうような子だからだ。

「ちがうちがう、もうちょっと前」
「えーっと、野生が足りない？」
「それはクレーに言われたわけじゃないよ！」

セチアは僕のことをどうも気遣っているらしいことは伝わったが、やはり珍しい、と思った。妖精というのは、たいてい自分中心で、セチアも例に洩れず自分が大事、みたいな子だったからだ。

「じゃあ、僕が妖精だったりして、って話？」
「そうそれ。ねえ、クレーはほんとうは自分のこと、どう思っているの？」

どう思っているもなにも、僕は妖精ではなく人間だ、というしかなかった。

「・・・。じゃあさ、妖精になりたい、って思ったことはない？」
「子供の頃は、そう思った時もあったかもしれないわね。でも、いまはさっぱりそうは思わないわね」
「うーん。じゃあ、じゃあ、クレーは妖精と人間の違いってなんだと思う？」

セチアが何を言わんとしようとしているのか、その意図はよくわからなかった。直接はっきりとものを言えない口下手な子ではあるから、わかるまで地道に付き合うしかない。

「そうね。妖精の定義が決まっていない以上、何をもって妖精とするか決まっているわけではないけど・・・。人間は人間からしか生まれないから、そこが違いといえるかしら」
「セチアは自分自身のことを妖精だと思っているのでしょうけど、定義は曖昧だから、もしかすると蝶の妖怪かもしれないし、はたまた蝶の突然変異かもしれないわね」

そう答えると、うーん、うーん、とセチアは考えこんでしまった。ちょっと長く説明しすぎたかもしれない。うまく自分の中で整理がつかないか、いい言葉が見つからないといった感じだ。

「えーっと、わたしやソラメロたちは、クレーのこと、友達だと思ってる！」
「そうね。僕達は友達ね」
「だよねっ！」

そう言うと、セチアは満足したのか笑顔で飛び去っていった。結局何が言いたいのかよくわからなかったが・・・僕と彼女たちがよい友達関係であることを確認したかったのかもしれない。妖精というのは、みな自分勝手ではあるけども、それでいて仲間意識というのは強いものだ。仲間だと認めたものに対しては、妖精だろうと人間だろうと大切にしたいと思っていたりする。まだそんなに長い付き合いではないものの、セチアともだいぶ打ち解けてきたのだろう。そう思うと、少しにやけてしまった。

包みの中には器に粟と稗と、少々の野菜が盛られている

竜のことについて聞かれ、いや、と一度言葉を濁しかけてから。

独り言ちて息を吐く。

もとは飛龍だった、と天を見上げる。