ブラウニーとは妖精の呼び名のひとつである。

妖精の呼び名というものは曖昧で、概ね似たような性質の妖精は同じような呼び名で呼ばれるものの、世界によってその姿や性質が異なることも多い。
また、別の名称でも、実態は同じような妖精であることもしばしばある。たとえば、ブラウニーと同等の性質を持つ妖精のことをある世界ではブッカ、ボダッハ、フェノゼリー、ドビー、座敷わらしなどと呼ばれていたりする。妖精たちの名前をつけるのは、主にその世界の住人だから、そのような呼称のずれはよく起こる。

ブラウニーと呼ばれる妖精は、大抵の場合は人の住まう家に住み着いていて、住む家人に益をもたらすことが多い。とくに家事は得意分野で、いつのまにか部屋が整理整頓されていたり、食器が片付いていたり、洗濯物が干されていたりするときは、彼らのしわざであることがおおい。ただし、彼らは恥ずかしがり屋であることが多く、めったなことでは姿をみせない。ブラウニーという呼び名は、彼らが茶色い髪や衣服といった身なりをしていることに起因するようだ。

僕の実家の妖精屋でも、ブラウニーにはよく働いてもらった。妖精にはなまけものやいたずら好きや気分屋が多いのだけれども、ブラウニーたちは仕事をきっちりこなしてくれるため、大変助かっていた。ただ、家事が得意というよりは、家事をしていないと落ち着かないぐらいの様子で、仕事が少ない時期などはブラウニーたちを落ち着かせるためにわざわざ仕事を作らなければいけなかったのは大変だった。綺麗に整ったリビングにわざわざクッキーを散らかしておいたり、綺麗に選択された衣服を泥水につけて外に放置したり、本末転倒なこともした。仕事が少ない時は適当になまけていてほしいのだが、それはそれで気難しい妖精なのかもしれない。

この世界では、ブラウニーたちは城内に住んでいるようで、城主のために尽くしているのだろう。僕達が一揆として攻めている以上、敵対するのもやむおえない。
ただ、ブラウニーとは呼ばれているものの、僕のよく知るブラウニーとは性質は若干異なるようだ。ブラウニーという呼称どおり、茶色い姿をしてはいるが、恥ずかしがり屋という様子はなく、普通に姿をみせているし、なによりチョコレートのような甘い匂いをふんだんに周囲にばらまいている。どうやら、この世界ではお菓子の妖精のことをブラウニーと呼ぶらしい。

ブラウニーの生態をしっかり研究するためにじっくり眺めていたら、気が付くと周りが敵だらけになっていた。

ちょっとだけという言葉とは裏腹に、予想以上に大胆に調べられて、とても戸惑っているようです。
右耳も調べたいという言葉に、びくりと震えます。

おとなしく我慢。我慢の子です。

分かったような分からないような説明をして。

なにしろ・・・

と、触覚のデメリットを言いかけたところで、実際に触られて。

真っ赤になって黙り込みます。

おなかを直接なでられるときのような、ぞわぞわしている、を何十倍にもしたような、我慢の表情です。
両手をぎゅーっと握ってじっと耐えながら、研究というのが終わるのを待っています、が──

いきなりぎゅっと握られて、得体のしれない悲鳴を上げると、ついに耐え切れずに飛び退きました。

大慌ててフードをばさっとかぶってしまうのです。

頑なにフードをかばいながら、触角のおさわり禁止令が出されるのでした。

感嘆に息を漏らす。
クレーの説明をどれくらい理解できたか怪しいが、
”そういうものである”魔法の体系のかたちの存在くらいは、
恐らくは諒解したのだろう。

赤い瞳の奥が揺らめく。