第8話　お祭り騒ぎ

入り口に4人の黒服が姿を見せる。
気づかれないように潜んで様子を伺っていたのだろう。
何処に隠れていたのか、店内からも黒服達が現れる。

テーブルを倒して盾替わりにした鳴丸は教授を強引に引っ張り影に隠れる。

キョトンとその様子を伺っているキャレット越しにグラサン男と視線が合う。
狂気に満ちた笑みに口を歪ませ、男は銃を掲げた。

おもいっきりキャレットの腕を引っ張る。しかし間に合わない。
明らかに銃身はキャレットごと撃ちぬこうと照準していた。
撃鉄が起こされる。
自身の背後にキャレットを引っぱりながら全力で叫んだ。

アリアは神速の手さばきで銃を抜き発砲。
正確無比な射撃はグラサン男が引き金を引くよりも早く、その手から拳銃を弾いた。
拳銃を持っていた腕を抑えてグラサン男がアリアを睨み付ける。

アリアの射撃で危機一髪難を逃れたのも束の間、脇に控えた黒服達がサブマシンガンを構えた。
事態を理解した客たちが一斉に逃げ出す中、出来る限り頭を低くしてカウンター裏まで駆ける。
逃げ惑う客を殴り倒し、押しのけ引き金を引く黒服の男達。その弾丸が、駆けた後をなぞって床にばらまかれる。
客の悲鳴と怒号が飛び交う中、キャレットを頑丈そうなカウンターの中に突き出すように押し込み、後に続いて転がり込めば、一泊遅れてカウンターを弾丸の雨が襲い、削り取られた木片が周囲に盛大に飛び散った。
鳴り響く破砕音は軽薄で現実味が無かったかが、降り注ぐ木片や、弾け飛ぶグラスや酒瓶のガラス片に現実を突きつけられる。

頑丈で分厚いカウンター作りに感謝しつつ、耐えてくれよと祈りながら頭を抱えて縮こまった。
二人同じポーズで震えながら耐えることしばし、一通り掃射が終わったのか、軽薄な発砲音が静かになった。

リロードタイミングだろうか、近くにあったミラーの破片を手に取り、頭を出さずに慎重に店内を探る。
丁度入り口の黒服とはカウンターを挟んで対する位置取りだが、アリアの居る2階への階段付近まではどうやっても銃撃に晒されそうだ。
アリアとエルの周囲には、既に黒服の男達が数名倒れており、今の銃撃の間に無力化したことが伺える。見事な手際だ。
セオリーとして奇襲を受けたら反対側なり2階なりに一度撤退してから反撃するものだが、位置取り的に撤退は難しい。
どうにかして逃げなくてはと焦りばかりが募った。
次の一斉掃射にカウンターが持ちこたえる保証はない。

入り口の黒服が弾丸の補充をしてる間に、店内に居た四人が拳銃を抜いて近づいてくる。
カウンターへと近づく黒服達へ、すかさずアリアが援護し、銃弾の雨を浴びせて動きを止めた。
物陰を巧みに使ってこっそり移動していたエルが、突然物陰から飛び出し地面を這うように身を低くしてカウンター近くの黒服達へ駆け寄る。
走りざまに木製の椅子を片手で掴み上げ、勢いそのままに一番近い黒服へと殴り掛かった。
まさか銃をもろともせず近接戦闘を仕掛けられるとは思っていなかったのか、動きの鈍い黒服の脳天に狙いたがわず椅子が命中する。命中した椅子は、まるで爆発でもしたようにバラバラの木片になって飛び散り、黒服の意識を根こそぎ刈り取った。
直ぐ後ろで銃を構えていた二人目の黒服が、崩れる仲間と弾ける木片に瞠目して怯んだのを見逃さず、エルは飛び蹴りを首に浴びせて黒服を一撃で昏倒させる。
着地を狙ってナイフを突き出した三人目の黒服の腕を、動きを読んでいたかのように掴んで捻り、手刀を入れてナイフを手放させると、そのまま華麗に一本背負い投げ。脳天から床に叩き付けた。
綺麗に脳天から床に叩きつけられた三人目の黒服は、何が起こったか分からぬまま意識を失ったことだろう。
直後に背後からタックルするように組み付いて来た四人目の黒服も、顔面に肘を入れて鼻をへし折られる。
あまりの痛みに手を放した黒服に、振り向きざまに強烈な裏拳をお見舞いする。脳震盪を起こして視線をぐらつかせる四人目の黒服を、裏拳の流れのまま顎から蹴り上げた。
弧を描いて背中から倒れる四人目の黒服。入り口の黒服達の盾になるよう絶妙な位置へと蹴り飛ばしたエルは、すかさずカウンターの陰へと飛び込むように転がり込んだ。

一瞬で4人を無力化したエルが隣にやってくると、スラントと共にカウンターから入り口の黒服の様子を伺った。
黒服達は多少動揺した様子を見せたものの、銃撃は断続的に繰り返され、徐々にカウンターを削っていく。

納得できない様子ながらも顎を引くキャレットに頷き返し、同じようにテーブルに隠れる鳴丸と教授に手で合図する。
アリアを指さし、走れと。
気持ち悪そうな顔をして自分がお酒を飲んでることをアピールする鳴丸に、もう一度アリアを指さし走れと強く合図する。
簡単なジェスチャーだったが、怒気が伝わったのか、二人が頷いたのを確認すると、銃撃の合間を縫って駆け出した。
狙い撃ちになりそうなところへエルがカウンター越しにウイスキーの瓶を投擲。黒服の一人の顔面に命中して射撃が逸れる。
キャレットの手を引き二階まで逃げおおせると、そのまま一目散に非常階段へと走る。
鳴丸とアスタリスクが続いたのを確認すると、アリアは床にばらまかれた酒へ向かって炎のエンブリオ、サラマンダーの力を込めた弾丸を撃ち込んだ。
黒服達の足元が火の海に代わる、たじろき後退した黒服達の目を盗んでエルが再びアリアの元へと駆けた。
火はどんどん広がり店の１Ｆは一瞬にして煙と炎に包まれた。

火の海を巧みに避けて追ってくる黒服達に牽制の射撃を数度行い、最後にアリアがその場を後にした。

店内の出火を眺めながら、口早に支持を出すグラサン男の前に、一人の男が歩み出た。
男は丈の短い神父服についた煤を片手で払い、特徴的なサングラスの位置を中指で治す。
煙草を燻らせながら、ゆっくりとした足取りで黒服達の中心へ歩み寄り、グラサン男に向けて煙草を弾いた。
赤い光点が煙が薄い尾を引き、グラサン男のスーツに当たって地面に落ちた。

言って拳を構える神父服の男。

神父のその呟きに、空気の重さが変わった。