帰ると決心するまではあれほど思い悩んでいたというのに、いざ戻ると決めてしまえば軽くなる足は、食欲に引っ張られているのかもしれない。

「うふふ〜　ニシンとおじゃがのパイに〜、カリフラワーのフライに〜、メープルクッキーに〜、たまねぎのひき肉詰めに〜　ハンバーグも、二種類あるの〜　チーズをたっぷり練りこんだシャルスカと〜、ソーセージの角切りと砕いた唐辛子を練りこんだ、グルマンスカ〜。
あっ、チーズのフライもきっと母さま作ってらっしゃるわ〜、わたしあれ、大好きなの〜
お酒にも合うから、おじ様たちも大好きで、わたし、全部食べられちゃわないように、揚げてすぐ、いくつかこっそり食べちゃうの〜」

川沿い、流れをコンパス代わりに歩く道中、ずっとそんな風にあれこれと新年のご馳走を挙げて、足取り軽く歩んでいたのだが。
想定の日数を超えても村が見えてこないとなれば、好物を挙げる声が少し小さくなった。

「あら〜　そろそろ着くと思ったのだけど…。
んん、やっぱりお城からだとずいぶんと遠いのね〜」

言いながら、少し視線を下げて足元を見下ろす。
ふかふかのスリッパに包まれた足は、たくさん歩いた今も、痛くない。
ふ、と自然と唇が緩んだ。

「いいわ、行きましょう〜　歩いてればそのうち着くもの！」

差し出されたものに、きょとん、と少し間の抜けた顔をする。
手を伸ばして受け取ったものはネックウォーマーだ。
その色合いが己に関するもので彩られていると気づけば、
小さく笑って、今付けているものの上に広げて重ねてみた。

笑い混じりにそう口にしてから、もうひとつ、袋を受け取る。
開いて覗く間もなく示された中身に、嬉しげに双眸を細めて。

礼を述べてから、バラを添えてみせる彼女の頭へと手を伸ばし。
そのパイの代わり———とでも言いたげに、
取りだしたものを、ぱち、ぱち、と音立てつつ金の髪へと留め置いた。

髪に溶け込まぬよう少しオレンジ掛かったボディに、首元の赤いリボン。
ニット素材で出来た、つぶらな瞳の、横向きフォルムのアヒルのヘアピンがふたつ。

相手の笑う様子に、何かおかしいことを言っただろうか、と小首をかしげる。

それから続く言葉に小さく息をつく。大丈夫そうだ、と思っての安堵の息。

彼女の言葉と表情につられるように少し笑って。

と言うもののあまり深く考えてもいないようで、悲観もせず淡々と言うのは本人が全く気にしてないからだろう。

歌うように呟いて、羽根ペンを持った右手を伸べる。
羽根ペンに宿った光のひとつが飛び出して、くるくると回り始めた。

ひとつ、ふたつ、みっつ。
回るたび、辺りの温度が下がっていく。
吐く息が白くなる。ちらちらと、白いものが落ちてくる。
星まで凍らせるような冷たい風が、サッと下から上へと吹き上げた。
目を開けると、いつから立っていたのだろう。
そこには、白い肌、赤い反物を携えた女がいた。