「彼女は今、傍に居ますか？」
二人だけが居るところで、従者は主人に尋ねた。

「彼女って……アレジアさんのこと？」
ええ、とグノウが頷くのに対して迦楼羅は首を振った。
「今は…姿が見えないかも」
「そうですか」
「……グノウは、アレジアさんのこと見えてたの？」
「はっきりとした姿が見えていたわけではありません、ぼんやりと…ただ声だけは聞こえていました。—今の私には聞こえないかもしれませんね」
「どうして聞こえたりしたの…かな」
「分かりません。ただ、どこかで同調していたように思います」
「同調？」
「ええ、私がそうであったように彼女もまたどこにもやれない、どうしようもない、どうしていいかわからない不安を抱いていたように思います。
それがどういったものなのか詳しいことは分かりませんが」
「その…言ったこととかは、覚えてる？」
「正直、覚えている部分もあれば曖昧な部分も。ですが、欠落した部分があったとはいえ、それはその時の私の本心であったことには違いないでしょう。
全てがそうじゃないとしても、どこかでそう思っていたところもあったのだと思います」
「……不死王の—クロイノは、解約…できないのかな」
「植物…木を抜くのと似ています」
「？木を、抜く？」
「木を一本抜くというのは容易ではありません。そして抜いたあとも大きな穴が残ります」
「……それ、って、どうなっちゃう…の？」
「私にも分かりません」
「…そっか。……僕、駄目だね」
「何が、です？」
「グノウのことも、お姉さんのことも、ポプリのことだって、言われなければ誰のことも気づけなくて…」
俯く迦楼羅の頭に手を置き、グノウは首を横に振る。
「私こそ、どれほど主人である貴方や他の人にも迷惑をかけたことか。最初こそいつでも辞められる、そう思っていたのにいつの間にか従者という立場に誇りを持つようになって、
守ることもままならないのなら辞めなければと思っていたのに、結局こんなことになってしまった。従者失格です」
「そんなことないっ！グノウはそれだけ僕のこと考えてくれた、メルンテーゼ中…ううん、どの世界に行ってもグノウ以上に僕のこと考えてくれる人はきっといない。
従者として主人を思ってくれるように、僕もグノウのこと思いたいっ」
「……」
「今まで守ってくれた…だからこれからは僕が守る！って言う大きなことは言えない、けど…。僕、自分で出来るって思ってたのに…なんにも、できてなかったから…」
「坊っちゃん…」
「だから、だからね、守る守られるじゃなくて、支え合ったりは出来ると思う！…グノウに支えてもらう部分の方が多い気もするけど、でも僕も…がんばるから…だから…」
そこまで言ったところでわしゃわしゃと、従者に頭を撫でられる。
「えっ…えっ！？」
「坊っちゃん、成長されましたね」
「えっ…でも、僕…全然なんにも…」
「いえ、そんなことないです」

貴方がそう言うから、私は従者で居たいと思う。

長くは居られなくても、せめて私が傍に居なくても大丈夫、そんな日まで———