旅の途中で知り合った白い猫、ラゼンシア。
彼女の持つ水晶玉に映り込んだ自分の従者は、少しやつれたように見えた。

「……間違いない。アリスよ。彼女だわ」

イリスの従者アリストクラット・シャット＝ブランシュは、城内で何者かと交戦、敗走していた。
その場に居た猫の視界を借りているだけと説明された水晶球の光景は、決して多くの情報をイリスに渡したわけではない。
しかし僅かな情報の中で決定的なものがあったのは幸運と言えた。
彼女がそのまま城内から外へと出て行く光景がはっきりと映っていたのだ。
城の外に面している場所が何処であるかはイリスもよく知っている。

「ごめんなさいラゼル、探しに行ってくるわ。……また、結果を報告しに必ず帰ってくるから。それに、貴方にお願いしたことも結果を聞かないといけないものね」

そう言い残して、返事も待たずに駆け出したのはつい1時間ほど前のことだ。
星屑の小川。
この美しい小川のどこかに、アリスが居る。



「急がせてごめんなさい、みんな」
「いいよイリス、これぐらいならへっちゃら。最初此処に来た時はみんなすぐバテちゃったけど、今回は余裕だね。いくらでも突き進めそう」

小川を遡り、先へ先へ。
探し人がいつまでも滞在している保証はなく、イリス達はいつもより何倍も速く侵攻を進めていた。
不測の事態への対応が疎かにになりがちになってしまうが、今回ばかりは目をつぶった。
何か起こっても対処ができるほど強くなったという自信を、イリス達は侵攻を急ぐ余裕に変えたのだ。

「見渡しはいいし、見つけるのも簡単そうだ」

少し前まではあっさりとスタミナを切らしていたロイも今や走りながら周囲を見渡し、言葉を交わせるほどだ。
行く手を阻む敵との戦いを既に一戦済ませた後でもあるのに、疲れはまだ誰も見せない。
油断や慢心、思い込みではない。確かな強さが彼らには備わっていた。

「……そろそろ奴らのテリトリーだ」

フィンの言葉に注意深く周囲を観察しなおせば、あたりの様子が少しだけ変わっていることに気づく。
あちこちに自然に破壊されたとは思えない傷を残す流木が流れ着いているのだ。
獰猛な巨大イカ、通称『帝王』。
その縄張りに、イリス達はついに足を踏み入れたのだ。

「多分向こうも気づいてる。どっかで仕掛けてくるから注意するんだ」
「えぇ、わかったわ」
「ふふん、イカ刺しにしてやるわ！」

不敵な笑みを浮かべるシェリナに、イリスもまた笑顔を向ける。

「……できるわよね？」
「えぇ。……あのような事にはならないわ」

視線の先には、かつてこの地を通行しようとして帝王に襲われたか、破壊された馬車の残骸などが転がっている。
不思議と恐れは湧かない。仲間の存在、強くなった自分、きっと両方が自分を支えているのだろう。
だから。



ズゥゥゥン・・・・・ッ！！



凄まじい振動とともに周囲が暗くなっても、イリスは決して動じることがなかった。

「出やがった……！」

見上げなければ全長が視界に収まらないほどの巨大な体躯。
存在を知識としてしか持っていなかったフィンは、あまりの巨大さに思わず後ずさりしてしまう。

「ちょっとフィン！　ビビってんじゃないわよ！　あんたが直接戦うわけじゃないんだから！」
「う、うるせー！　予想よりデカくて驚いただけだ！」

見咎めるのはもちろんシェリナだ。
言われて初めてフィンも自分が後ろに退いてしまったことに気づいたのか、顔を赤くして反論している。

「まったく女のあたしやイリスのほうがキモが座って——」



「ギュオオオオアアアアアアアアアアアァァァァアアアアアアアアァァァァァァァッ！！！」



「きゃー！？」
「……お前だってビビってるじゃないか」
「う、うっさい！」

テリトリーに無断で侵入された怒りに満ちた声に、シェリナもイリスの背に隠れてしまう。
自分の後ろで賑やかにいつもの騒ぎを繰り返す二人に、イリスは感謝した。
彼らがこうして騒がしくしてくれるからこそ、自分は逆に冷静でいられるから。

「……負ける訳にはいかないわ。みんな、準備はいい？」
「もちろん！　やっちゃうぞー！」
「いつでもオーケー。……しかし、本当でかいなぁ……」
「ヒヒッ。派手にやろう」
「フィン、シェリナ。あなた達もお願いね。大丈夫、敵は一匹だけ——」



「ギュオオオオアアアアアアアアアアアァァァァアアアアアアアアァァァァァァァッ！！！」



「え……っ！？」

しかしイリスの冷静さも、再びの咆哮にヒビが入った。
咆哮が、後ろから響いている。
思わず振り返れば、そこには二匹目の帝王イカが腕を振り回していた。



「ギュオオオオアアアアアアアアアアアァァァァアアアアアアアアァァァァァァァッ！！！」



「ちょ、ちょっと！？」

更に右から。
慌ててマオがそちらに向き直れば、怒り狂い今にも襲いかかりそうな帝王イカがいる。



「ギュオオオオアアアアアアアアアアアァァァァアアアアアアアアァァァァァァァッ！！！」



「……おいおい……」

左から。
ロイは現実を認めたくないとばかりに頭を振るが、諦めて左に向き直った。
やはり、そこには帝王イカが鎮座している。

「……四匹も……！？」
「はぁっ！？　帝王がなんでこんなに集ってんだ！？」
「ど、どうしようイリスっ！？　どうしようっ！？」

四人で一匹の帝王イカを倒す、描いたシナリオは脆くも崩れ去った。
慌てふためくフィンとシェリナの声にイリスは更に冷静さを欠きそうになるが、静かに正面の帝王イカを睨みつけて言った。

「マオ。ロイ。アエレア。一人で一匹を倒す。……できる？」
「やってみる！　というか、やらなきゃやられる！」
「まぁ……善処するよ」
「スリルがあって良いプランだ。乗った」
「決まりね」

一人で立ち向かうことが怖くないはずはない。
仲間の助けが無い状況はイリスの自信を半分喪失させたに等しかった。

「……泣き言を言っても仕方ないわ。倒さなければならない。一人一匹、相手取りましょう」

しかし失われた半分の自信を咄嗟にイリスは補う事に成功する。

「アリスがここにいるはずなの。……邪魔はさせない！」

従者への強い思い。
いわば主人としてのプライドが、彼女に再び勇気を与えたのだった。

お願いをしっかりとした表情で聞いて

足の先から頭へと視線を動かし

見た目と年齢は一致しないという例を思い出したらしい

仲の良さげなエンブリオたちの様子を見て頬がゆるみます。

どうやら、"おしゃれ"と言ってもらえたことが嬉しいようだ。

スズメたちの決まりごとは、基本的にゆるすぎた。
スズメじゃない鳥が混ざっていても、気にしないのじゃないかと思う程度にはゆるい。

ついでに、このスズメ、鳥の数え方を"いちば"　"にば"　と数えているようだ。
まあ・・・　数えられるだけマシなのかもしれないが。

名前を付け貰えるというのは、スズメにとって、とても新鮮な出来事らしい。
しっぽが　ぴこぴこ　上下しているあたり、名前に興味津々なのだろう。

すごい勢いで身元をバラす狐であった。

orzなポーズで落ち込むきちゅね。フカフカモフモフのおひさまのような二尾もくてぇんっと力なく垂れている…！

Ｇ・Ｇが繰り出した得物は一対のトンファーだッ!!