などと偉そうなこと言いながら、アムルの部屋へお邪魔するポポロ。

　しかし、コタツに腰を落ち着けた途端、きょろきょろと視線を巡らせるその姿は子供のようであった。

+++

　戻ってきたアムルからココアを受け取ると、ポポロはお礼を言いつつも微妙な表情を浮かべた。
　——別に、ポポロの分のココアは必要ないですよ。
　そう思ったが、それを口にすることはなかった。なぜだろう。

　アムルがコタツの話題をはじめると、ポポロは受け取ったカップをテーブルに置いてから、表情を崩して笑う。

　はふう、と息をつきながら、ポポロはコタツのテーブルに顎を乗せてくつろぐ。こうするとアムルと同じ視線の高さになり、正面から見るアムルはなんだかいつもと違って見えて、それがポポロには楽しく思えた。
　そのまま、ココアが美味しいと呟くアムルに笑顔で返した。

　なんだかしゃべり方まで、いつもより間延びしたものになっているような。
　顔をごろごろと転がしてみたり、突っ伏して額を押しつけたりしてテーブルの冷たい感触を楽しんでいたら、唐突に投げかけられた感謝の言葉に、ポポロは顔を上げてアムルに笑いかけた。

だから、またそのうちお願いしますね、と次への布石は欠かさない。

だとしたら逆に面白いから、紹介して欲しいなあ、等と、鬼は笑う

青い人に言及されれば、ええ、と頷き。
ピュイッっと再び指笛を鳴らし、呼ぶ

白い少女の手には、いつの間にか身の丈程の大鎌、
足元から湧き出した黒い棘とも触手ともつかない何かはその数と大きさを増していき、
時折ぎょろりと、無数の眼のようなものを見開きます。
ミオと呼ばれた少女は今や、人の形はしているものの、異形の怪物と呼ぶに十分なものです。

やがて、その姿を睨みつける視線に気づきます。

　+ + +

それはミオが初めて見せる、年相応の女の子としての感情だったのでした。


　+ + +

初めての膝枕に、少し甘えてみたり。
やがて始まった王女様の恋物語に、微動だにせずに静かに聞き入ります。
あまりにも静か過ぎて、本当に聞いているのかわからなくなりそうですが、
実は内心わくわくが止まらない程に高揚しながら聞いているのでした。

えらいえらい、と頭をなでるエリア。

珍しく言うのに躊躇いがある様子。
態度からするとあまり良い話ではなさそうだ。

話を察しつつも根拠のないフォローをするエリア。

でも、妖精の森もこの先怖いのでした

さらっとちょっと手櫛のように掬ってみたりして

顔が綻んでいた。

たとえば、とアムルが言ったので何か案があるのかなと注視する。
していたが、突然頭をぶんぶんと振ってやっぱり無し、と心なしか赤い顔で言い出したので、さすがに驚いた顔を浮かべた。

本人が無しで、と言っている以上、深く尋ねたりはしないが。
一体どんな衣装を考えたのだろうと心中で首を傾げるのだった。

シンプルで。愛らしくて。清純派っぽい。衣装。
…を、自分が着ている姿を想像する。

そもそも魔王らしい衣装ではないのだが、その辺に気付く事は無かった。
続くアムルの案には、んん？　と疑問げな顔を浮かべて。

イメージする。ドラゴンとかオーガとかが担ぐ豪華な神輿に乗っている、自分。
確かに偉そうではある。偉そうではあるが、これは。

アムルの顔を見てみると、自分でもどうかと思ったようで。
気まずい沈黙が流れる。流れた後。アムルのまとめに——

便乗した。

肯定の言葉は『本物の勇者だから魔王を倒せた』という部分に宛てられたものだろう。
続く、あなたの中で生き続ける、という言葉には言葉では答えない。

それはありがとう、と言っているようにも取れるし、何かを諦めているようにも見える。
もう終わった事だと拒絶しているようにも取れるし、泣いているようにも見える。
ただ、いずれにしても確かなのは、今この時、故郷の勇者を想い、感じているという事だけだった。

前回と同じように、聞き慣れた声に反応して社長はそちらの様子に気づいた。

社長は前髪を掴み、クシャクシャとかき回している。
それは迷惑半分といった感じで、前回のどきまぎした様子とは明らかに違った。

どこか吹っ切れた感があるように見えたかもしれない。

それが、良いことなのか悪いことなのかは、分からないが。


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アムルの話を聞き終わり、社長はこう呟いた。

社長は平然としているが、表情はなかった

そこで、社長は視線をアムルから人混みの方に移す。
多くのメルンテーゼ住人が雑踏を歩いている。
皆、平然と歩いているが……その腹の中は分からない。

視線を雑踏の人混みからアムルに戻し、息を漏らすようにしてフフッと笑った。
一瞬だけ、目に優しい物が移ったかも知れない。

そう呟くと、立ち去ろうとするアムルの姿を見送るようにして、社長はただその場に立っている。