辺りの日も落ち、街には屋台のあかりがぽつぽつと見えてくる。
　射的やくじ、お面の販売から、各種食べ物の夜店がずらりと並ぶ。
　今日この日だけは一揆への緊張から解き放たれた者達でわいわいと賑わう。

　今日はそんな一日。


[SummerVacation]　夜の部



　海の家の手伝いも一段落つき、シャワーと着替えを終えた頃には辺りは大分暗くなっていた。
　街はもう賑いだしている。もしかしたら、出張版リチェッタもこの屋台に紛れているのかもしれない。
　
　屋台の並ぶ大通りまであとすこし。
　ぼんやりとしながら彼女は歩く。

　
　昼間は忙しいながら楽しかったな、とか
　暑い中で食べるカレーやアイスは格別だったな、とか
　そんなことを思い出しては少し穏やかな気持ちになる。


　その一方で一揆という不慣れな事に参加をしていること
　得意でない戦闘についていく事で精一杯だということ
　そして、目的の達成には程遠いということ
　そんなことを考えては頭が重くなる。


　だからこそ、夜は酒でも飲みながらゆっくりとしたかったのだが何故かふとこんな町中に足が運んでしまったのだ。

　そんなことをつぶやきつつ彼女は歩く。
　すれ違う人々は思い思いの浴衣を着ていたりして、なんだかすごく懐かしい。
　自分も大分前に着たが亜人種というものは尻尾の関係上調整が必要な為、レンタル品でやるのは気が引ける。
　あの人ならば、それでも笑顔で薦めてくるかもしれないが・・・。

　あいにく浴衣までは持ってきていない。いや、荷物は最低限しか持ってきていないのだ。
　元々の目的は一揆への参加では無かったし、大荷物で動けるほどの体力も持ち合わせていない。
　こればっかりは仕方が無い・・・だが、それはまぁ・・良い。

　だが、問題は目的の方だ・・・。
　ここ数日。実際にネクターを使い契約を行ってみたことでわかった事がある。
　それはネクター自体に多大な魔力が込められているというわけではないということだ。

　少なくとも・・燃料としての価値は無い。
　摘み取られて数日も経つが枯れずに咲き続けているのは植物として見れば異常だ
　故に最初は咲き続けるほどの魔力があるのかと思ったのだが実際に契約してみるとわかる。
　契約に消費するのはこの身に宿ったこの世界魔力、私自身が取り込んだ魔力ということになる。
　それなのに、ネクターは契約をすると消えてしまう。

　この事からネクターはこの世界の魔力を何かと繋ぐ媒体なのではないかと推測できる。
　20年ほど前、とある島で起こった偽葉騒動の時のような葉っぱそのものが魔力を持つものとはまるで違う。
　この花が摘まれても枯れないのはおそらくこの世界に漂う魔力が通っているからであろう。
　契約の際に散るのは契約時の負荷に耐え切れないからだろう。おそらくは。

　推測の域は出ないがこのまま元の世界に持ち帰った処で空気が合わず枯らしてしまうだけであろう。


　時間稼ぎの方はなんとかなっているが・・こちらは仕組みそのものを解明できなければおそらく意味はない。


　そして、これも憶測なのだが・・・新王とやらは何か知っている。



　と、そうして考えたところでどうこうなるものでも無いのはわかっているのだが。
　一人になるとつい考えこんでしまう。

　やれやれ・・とため息をついたその時であった。路地の影から何者かが飛び出してきたのだ。

　思わずうわっと驚いてしまったが、よく見ると・・・見た顔である。
　

　どこか嘘臭いがここはあえて気にしないことにする。

　珍しい。素直にそう思った。
　というか、これは・・完全に・・・

　完全に・・・

　完全に・・・気遣われている。
　ダッシュで買いにいったマキリを見て少し自分が情けなくなる。
　まぁ、私は顔に出やすい方だけど。アイツも行動はバカだけど、頭は悪いやつじゃないからな・・。

　そう言いつつもいつのまにか表情は明るくなっている。
　少し、マキリに救われた気がした。気がしたのだが・・・

暑い夜はまだまだ続く。





*+*+*+*+注意書き*+*+*+*+
・[SummerVacation]企画参加中です。
・イベント中の時系列は基本的に無視してお楽しみください。
・ネクターについては完全に憶測です。正式設定とは何の関係もございません。

　マキリに煽られるだけ煽られて、添い寝決行を決意するポポロ。
　そして、数日後——。

　見るも天晴れな簀巻きにされて、さらに逆さづりになってるポポロとマキリがそこにいた。

そういって取り出したのは、ねこじゃらし
らすぬこの目の前でみょんみょんと動かしてみる。