布団に寝転びながら俺は阿僧祇から渡された物を眺めたり転がしたりしていた。
それは１０ｃｍほどの赤い箱の様な六面体。

『もう少し調整してから渡したかったのだがな・・・』

と言いながら阿僧祇に渡されてから
この箱はうんともスンとも言わずに
おれの好きなように転がされたりひっくり返されたりしている。
「調整も何も・・・これ、壊れてんじゃねーだろうな？」
箱に話しかけた所でどうなるもんでもないけれど
本音が口から零れる。

『私も自分の人形の調整に手がかかってしまっていてな
タケトの分まで手が回っていないのだ。
何かと面倒になってきたから、さっさと渡してしまう事にしたよ』

面倒になったからとか・・・どんだけいい加減なんだよあいつは。
そもそも、そういう事を面と向かって言ってしまえる所が
おかしいと思うんだが、阿僧祇煮は分かっていないようだ。
指摘した所で

『あぁ・・すまない。本音とは隠した方が良い物なのだったな』

くらいの返事しか返ってこないだろう。
それに指摘した所で直そうとする事も無いだろう。
俺は箱の角と角を指で挟んでクルクル廻して遊び出した。
箱の材質は・・・鉄みたいな金属ではないようだ。
石かな・・・？
硬くて軽い箱は指の間でクルクルと回る。
今までの阿僧祇とのやり取りを何気に思い出して
ため息が出た。
俺のため息がかかった瞬間、箱の色ががほんの少し変わったような・・・気がした。
「息をかければ・・・いいのか？」
俺は風車を廻す勢いで箱に全力で息を吹きかける。
気がつくと指で弾かなくてもクルクルと回り続ける箱。
内側から光り出している。
「壊れて無かったか」
息を吹きかけるのを止めてはこの回転が止まるのをしばらく待つ。
箱はゆっくりと回転を止めて、明るく輝いたり少し暗くなったりを繰り返す。
「どういう作りになってるんだ？」

箱に顔を近づけて覗きこむと
箱の中は色々な色の『赤』が渦を巻いていた。
明るい赤。暗い紅。
不規則に動くそれぞれの赤。
箱の輝きが明滅しているように見えるのは
中で動き回る『赤』の加減なんだろう・・・。
そんな『赤』が見せる様子が面白くて覗きこんでいると
『赤』の奥に何かが見えた。
それは俺の視線に気がついたようで
ゾロリと動いて俺の方に向きを変えたようだった。
「こんな箱の中に・・・生き物？」
箱の大きさからすると２ｃｍほどの小さな・・・生き物。
渦を巻く『赤』のせいで細かい特徴は分からないけど
白く輝く眼をした小さな生き物。
それと視線があってから身じろぎひとつ出来ずにいると
その生き物はゆっくりとこっちに歩いて近づいてきた。
「うわ！」
驚いて声を上げて箱を放り投げる。
布団の上に軽い音を立てて箱は落ちた。
白い生き物が出てくるんじゃないかと、ちょっと待ってみたが
どうやら出ては来ないようだ。
こんな様子を阿僧祇に見られなくて良かった。

『そういうのを『ビビり』と言うのだろう？知っているぞ』

とか言いながら鼻で笑われる状況が頭をよぎる。
「俺は『ビビり』じゃない！慎重派なんだ！」
誰に反論するでもなく呟いてから、また箱を覗きこむ。
あの生き物がどうなったかを確認するために。
それはまた箱の中央の辺りに戻っていた。
すぐに俺の視線に気づいたようでこちらに向きを変えるが、
近づいては来なかった。
また睨みあうように視線が交わる。

『・・・阿僧祇・・・？・・・タケト・・・』

頭の中に声が響く。
その途端、俺は意識が薄れていった。

＞このみ殿

＞小熊

＞封真＆衛智

何か言いたそうだったが、言葉を飲み込み立ち去った。

ぐっと握りこぶしを握りしめて何から関心している。

しげしげと珍しい物を見るように手土産を受け取る。

荷物をゴソゴソと漁っている。

基本、悪戯妖精なので持ち物はこんなものしかないようだ。