「どうしよう、遅くなっちゃった・・・」

柔らかな桃色のマフラーを口元まで上げ、先を急ぐ
ギルくんから頼まれたおつかい、早く届けなくちゃ
街を彩る橙の光がぽつ、ぽつと灯り始める
時々吹き抜ける冷たい夜風もなんとなく心地よい


走るのは得意
これでも一応狩猟犬だし！


・・・その油断がいけなかったのだろうか、
アスファルトの段差に気付かず、脚がもつれ
ふわりと体が浮く

（・・・！）

思わず目をつむる
おつかいの物と、ギルくん、マハちゃん、カネちゃん、チェリオくん、ブチくんみんなで食べようと思って買ってきたあんまんはぎゅっと胸に抱いたまま



「・・・・・・っ・・あ・・れ　？」





・・・
どうしたことだろう、
痛みもない、
むしろなんだか甘い、そんな香りと
冷たい手に包まれている



「・・・大丈夫？」



頭上から聞こえてきた声に顔をあげると
眼鏡のフレーム越しのくすんだ金の瞳と目が合う
なんだろう、この人の瞳は・・・
冷たく、悲しく、・・・


「・・・あ、あのっ、ごめんなさい！」

その瞳から逃げるように、そして冷たい指先から逃げるように
そっと身を離す
周りの草木がざわっという音をたてる

「いや、怪我がなくてよかったね、あと、そのあんまんも」

ふっとその人は笑い、
「だけど自分の身が大事なんだから、抱えたまま倒れるんじゃなく、手、出さないとね」
と言いながら私から少し離れ
ほこりを払いながら、まっすぐ立ち上がった
右手で眼鏡を少しあげながら、じっと私を見据える

「・・・？」
「ああ・・・君は・・・」

そう呟くと、すっと私の頬に冷たい指先を当てる
長くて白い指


「君は、使い魔か何かかい？」
「！」
「・・・愛らしい顔をしているけど」

そのまま指先を離し、今度は耳元へ顔を近づける





「中身は・・・悪魔だ」





ぞくりとする声色
穏やかで優しい声なのに
なぜこんなに背筋が凍るのだろう

「シュリザは・・・・っ」

「・・・シュリザ、へえ。」

そのままその人は離れると
ニッと口角をあげて笑う

「いきなり女性に近づくなんて、失礼だったね
・・・ごめんね、ボクはヴァルベリト」

「・・・君と似たような境遇の者」

「似たよう・・・な・・？」

「うん、なんだか同士に会ったみたいで・・・、嬉しくなってさ」


目を細めて笑っているのに
あのくすんだ瞳の奥は全く笑っていなくて

むしろ私、いや自分の中の『悪魔』を
憎むような、そんな気持ちが伝わってくる


「仲間って、どういうこと！？」
なぜか無性に腹が立って
普段出さないような声に
自分でも驚く

そう、悪魔だよ、シュリザは
だけど

だけど・・・っ




ふと目を見開いたヴァルベリトという男の人は、すぐ目を細め、
そっと呟く





「ボクもさ、・・・悪魔だ」

「君みたいな純粋な心をもった悪魔なら、まだ、」

「救われようがあったのかもしれないね」





悲しげな顔
今度は本当に悲しげな顔
何かに絶望しているのだろうか

チカッ、チカッと一つ切れかけそうになっている橙の灯りが
フラッシュのように私たちを照らす



しばらくそのままでいると

「ああ、そう、ボクは探し物をしてるんだった、
眠れる森のお姫様、それと・・・悲しい悲しい棘の子を」

と言いながら
ヴァルベリトはふっと消えてしまった





悪魔の彼と
悪魔な私の
偶然の出会い

握っていた竿を放り出し、ブチの方へ走り出した。



※日記へと続かせていただきました。