結構な時間が経っているはずなのに、釣れた魚は１匹のみ。
その１匹も、私がギルザへ声をかける前に釣れたものだ。

…つくづく釣りとは縁遠いな

ぼんやりと２人と１匹の時間は過ぎていく。




そろそろ陽も傾いてきた時分

「え！ブチさん、それ引いてるみたいです！！！！」

急いで目を向ければ、ブチの握った釣竿は急はカーブを描いて、
いまにも手（前足？）から抜けてしまいそうなほどのしなりを見せていた。

「大丈夫か…？！わ、私達も手を貸そう！！」

竿が抜けるのは構わない。
しかしブチの小さな体はズルズルと海へ引きずられ、そのまま落ちてしまいそうになっている。

慌ててギルザが後ろからブチを覆うようにして竿を握り、私は彼の体にしがみつく。
竿は折れんばかりに曲がり、糸は切れんばかりに張って、右へ左へと私達を翻弄した。


格闘すること数分。
魚の体力も尽きてきたようで、徐々に糸の動きが緩慢になってきていた。
２人と１匹、目配せをし、足に腰に力を込めた。


「　「せーーーーーの！！！」　」



ザバァァァァア！！




宙を舞う魚は、今まで見たどんなものよりも大きくて


私達は声を張り上げて、喜びを叫んだ。

アデルが投げ入れた餌が水面へ吸い込まれていくのを見届けた後、
今度は自分の釣竿を取り出して釣りの用意をする。

ふいに投げかけられた問いに顔を向けた。

それだけ答えると、餌付けを終わらせ
アデルの横に少し離れて立ち、風を切るように振った。

褒められ頭を撫でられとてもご満悦の様子。

少し雰囲気の変わったアデルを見て首を傾げると

元気づけようとしているのか頬をザリッと一舐めした。

早く一揆が終わればいいのにな、と小さくこぼす

気持ちのいい話ではない、忘れてほしいという言葉によく理解が出来ないまま頷いた。