＊前回のあらすじ＊

「今、はっきりと言えるのは……この状態のままでは、我々には扱える代物ではない、ということです。」

「まずはネクタードライバーの方を改造しましょう。」

「でっきましたー！！」

「その腰に着けてるソレは何だァ！？」

「キラークリーパーローバル！？」

「……変身ッ！」

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穏やかな森に、緊張が走った。
植物を模した仮面の怪人と対峙するのは、燃え盛る炎を象った姿のマスカレイダー。キラークリーパーローバルの方は本能的に相手が何者であるのか解っているのか、それとも何者かに教えられたのか、無闇に突っ込んで来るという事はなく、距離を保ったまま出方を伺っている。

「……」

「……」

対するヴァルト——シュミットも迂闊に動けないでいた。通常の戦闘では槍を持って戦っているが、今は全くの素手である。勝手の違いに慣れずにいたのだ。
すぐにそれを察したのか、先に動いたのはクリーパーローバルだった。両手から伸ばした蔦がシュミットを拘束せんと迫る。

「うわっと！」

迫り来る蔦を身を捻って躱す、標的を逃した蔦はその背後に生えていた大木の幹を抉り、地面へと突き刺さった。

「生身であんな攻撃受ければ、一堪りもないですね……」

シュミットの背筋が冷える。そんな隙を突いて二度目の蔦攻撃をローバルは繰り出してきた。しかし今度は攻撃の内容を知っている分、回避は容易い。
直撃ギリギリを見極めて紙一重で躱すと、シュミットはその蔦を掴んだ。

「今度は……こちらが行きますよ！」

掴んだ蔦を力任せに引っ張ると、たじろいだローバルを引き寄せ、その胸へと蹴りを打ち込む。
明らかにダメージの入っている様子を確認すると、続けて２発、３発目を打ち込んで蔦を離せば、蹴りの衝撃でローバルは大きく吹き飛び、砂埃を巻き上げ木に叩きつけられる。

「まさか今ので倒される……なんて事はないでしょうか。」

「油断すンなよ大将、奴ァ相当搾り取ってるみたいだしなア。」

シュミットとフランメがそんな言葉を交わした直後、突如地面から蔦が伸び、鋭い牙を並べた花がシュミットの肩を捉えた。
食い込む牙の痛みにうめき声を上げながらも、シュミットは肩に食い付く花を掴む。
追撃が来る前に、と無理矢理に花を引き剥がすも蔦の直撃を胸に受けたシュミットが、今度は大きく弾き飛ばされた。

「かはっ……今のは、完全に油断でした……。」

強化外骨格の装甲によりダメージは減っているものの、大木の幹を抉る程の威力はやはり大きく、シュミットは小さく舌打ちをした。
思ったよりもダメージは軽減される、が、だからと言って相手の攻撃を無視して突っ込むような真似は出来ない。そう心に刻んで、シュミットは改めてキラークリーパーローバルと対峙した。

「今のは……蔦が地面の下を通って来たわけですね……ほぼ不可視の遠隔攻撃……ですか。」

冷静に、先の攻撃を分析する。

「目に見える攻撃は避けられると踏んでの不意打ち……ですが、まあ……その技は覚えました。」

ぴっ、と右手の人差し指をローバルへと向ける。

「さあ、来なさい。そろそろ終わりにしましょう。」

我ながら安い挑発だ、と自嘲しながらもシュミットは身構える。対するローバルも挑発に乗ったわけでは無いのだろうが、花弁に生えた牙をカチカチと鳴らして威嚇し始める。
動いたのは、ほぼ同時だった。ローバルの繰り出す蔦攻撃を去なしながら、間合いを詰めるシュミット。

「ハァァァァァ……！」

気合の声と共にローバルの両腕を掴み、逃れようと暴れるローバルを無理やり腕力で抑え付ける。
ローバルが金切り声の様な悲鳴を上げても、腕の力は決して緩めずに。そして右足にフランメが供給し、ドライバーが増幅した魔力を集中させる。


足全体が燃え盛る様に見える程の魔力を纏わせ、そのまま右足でキラークリーパーローバルを蹴り上げた。強い衝撃とともに、足に纏われていた魔力がローバルの体へと送り込まれる。
突然注ぎ込まれた魔力に、戸惑い立ち竦んだローバルへと続け様の第二撃。


蹴り上げで高く掲げられた右足を一気に振り下ろした。


「ハァッ！！」


さながら金槌による一打のように、シュミットの振り下ろした足はキラークリーパーローバルの頭頂を強かに打ち据え、同時に魔力も叩きつける。
凝縮され渦巻く魔力へ強い衝撃が加えられ、ローバルの体内で魔力は大爆発を起こした。


「……ふう。ともあれ一丁上がり、ですかね。」


爆発の余波でざわめく木々を見て、シュミットは変身を解除する。
まだまだドライバーの解析及び戦闘の洗練は必要そうだ、と振り返ると、今戦ったばかりのローバルを報告すべく足早にその場を後にした。

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訂正：前回の日記で「シュリーカー」としていたエンブリオは「キラークリーパー」の誤りでした。
眠い頭で日記を書くとこうなります、皆様も十分気を付けてください。　　もちすま

長い長い冒険譚もここでひと通りの区切りを見せ——

といいつつも双球を肩の上に乗せるのを辞める気配はなかった

と平然とそう言う事をのたまった

遠くから騒がしい声が聞こえてきた。
そしてその声は徐々に近づいてくる。

…と思た矢先に少年は転倒、派手に水しぶきを上げて川に沈んでいった。