ギィ、と軋んだ音をたてたドアの隙間から、少女は室内を覗き込んだ。
簡素な部屋である。
板張りの床に寝台、何の装飾も施されていない机と椅子。
机の上に置かれたランプは、手に取れば暫く使われた形跡がないことがわかるだろう。
一歩足を出せば、床が高く鳴った。
綺麗に片づけられてはいるが、主の居ない庵の中は少し埃っぽい。
ガタガタと音を立てて窓を開けると、森特有の湿気を帯びた風が部屋へと舞い込んだ。
窓から身を乗り出し、上を見上げる。
鬱蒼とお生い茂る木々、まだ昼だというのに森の中は薄暗く、少女は机の上に置かれたランプに灯をともした。





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親愛なるリュート


お元気ですか。
優しく私を抱きしめてくれたあの日からそれほど月日は流れてはいないというのに、もうずっと遠くの事の様に思います。

今、私は迷い森のガリバルディアの庵でペンをとっています。
何年か前、私がおじいちゃんと旅先で迷い森に入りこんだ時に、ガリバルディアに会った話をした事を覚えているかしら。
また訪れた此処は、庵は当時のまま残っていたけれど、主のガリバルディアの姿がありませんでした。
客間に、一揆に参加するために不在にすると、そう書置きが残されていました。
迷い人を導く灯であるガリバルディアですら、戦わなくてはならない。
この現実を思うと悲しくなります。

リュート、貴方も背負っているものはとても大きいものだと思う。
傍にいて、一緒に分かち合ってあげられない事をとても残念に思います。
一日も早く、この戦が終わりますように。

リュートとレフィーンお姉さまの事を、いつも想っています。


チセ

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「なぁー、チセー！」

ドアを隔てたアールの呼びかけに、少女は顔を上げると「はーい。」と返事をした。
インクを乾かすため、ちょうど書き終わった手紙を机の上に残し、少女は呼び主の方へと向かった。

アールは、応接間にある本棚を、興味深げに眺めていた。
そこには、先程チセがアールに聞かせたジャドゥーラの童謡が記された本もあるだろう。
アールの隣に並び立ち、その背表紙を流れるようになぞっていくと、そのうちその目は一冊の本で止まった。
















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　くらいくらいもりのなか　ぼくはこっちにむかってる
　くらいくらいもりのなか　きみはあっちにむかってる
　くらいくらいもりのなか　あのこはどっちにむかってる？

　はぐれちゃってもだいじょうぶ　まいごになってもだいじょうぶ
　ぼくらはいくばしょしってるよ　ぼくらはいきかたしってるよ

　ここのおちばをまたいでみぎに　あそこにえだがみえたらひだりに
　それだといきかたわからない？　それならこれはどうだろう

　くらいくらいもりのなか　ひかりをさがしてあるくんだ
　くらいくらいもりのなか　ひかりをもとめてあるくんだ
　くらいくらいもりのなか　ともしびみえたらもくてきち

　あかりがみえたらたずねてみよう　いおりがみえたらたずねてみよう
　まよいもりのあんないにんがそこにいる　ガリバルディアがそこにいる

　　　　　　　　　　　　　　　　——ジャドゥーラ童謡の一節より

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ENo.1030ヴィクラムさんの設定をお借りしています。

感嘆の声をあげながら、大げさに頷いてみせる

感嘆の声をあげながら、大げさに頷いてみせる

『大切にできたら、いいですね…』

そう言って少女は、空に紗を透かしたような淡い青の瞳を逸らす。

——彼女は、自分で気付いているだろうか。
その美しい瞳を翳らすもの、それこそが年齢に見合わぬ諦観の念であることに。

おどけたような口ぶりで言って、ジレのポケットから一枚の金貨を取り出して見せる。
精細なオオカミのレリーフそが目を引くそれは一般に流通する貨幣とは異なる、
いわゆる記念硬貨の類の物と見受けられた。

『君の旅の一助になりますように』——そう言ってブラックは薄らと笑った。

　

肩を抱いていた手を滑らせ、今度は腰を抱き寄せる。
より近くなった距離と赤く染まった頬を見て、ジャックは楽しげにくつくつと笑う。

「心ゆくまで愉しもうぜ？」と低く小さく囁いて、耳元に唇を落とす。
そうしてパッと離れ、笑みを浮かべながら軽く頭を撫でて、
手をひらひらと振りながらジャックは歩き始めた。

チセはぽかんとしている。

少女はソワソワしている。