ENo.102 檜

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ショウ＝エミリアの日記

竜の里は私の家から山を一つほど越えたところにある。
自然との調和を非常に大切に重んじており、その事から一見するとただの山のようにしか見えないのが竜の里だ。
竜は食物連鎖の頂点にいる為、他の動物達との共存を大切にする。
勿論、自分が生きていく為に大切な食べ物として、の関係だが。
食べ過ぎず、小食過ぎず、季節に応じて調節をして生きている。

私もあまり行きたくない場所ではあるが、今回ばかりは檜の為でもあるので仕方無しに行く。

近づくにつれ、様々な竜の姿が見える。檜ばかり赤い鱗を纏ったモノばかりではない。
人型の竜、翼の無い蛇のような竜、白い竜、青い竜など竜と一言に言っても多くの種類がいる。
多くの種類の竜達がこの里で暮らしている訳だ。他に住んでいるところを私は知らない。
竜が木の上からじっと歩いてくる私を凝視する。通り過ぎると興味が失せたかのように何処かに行く。
何を考えているかは分からない。

そうやって歩いていくと森林限界を通り過ぎた辺りに、竜の長が住処としている洞窟があった。
ぽっかりと大きく開いた洞窟の入り口を通ると黒い闇としか言えない位の暗闇になる為、用意してきた松明を片手に中へ入っていく。
しばらく歩いていくと低く重い声が洞窟を反響した。

「何か用か？」

何処にいるのか全く見当もつかないので立ち止まり答えてみる。

「私はそちらの長と話したいことがあって、ここにやってきました。
　一山超えた辺りに私の家がある事はご存知でしょう。
　そこで狩りをしようとすると、一部の竜が私の獲物を意図的に狩っていきます。
　子供の事もあるので早々に止めてもらう事をお願いします。」

私の声も反響する。
反響し終わった後、返事が返ってくる。

「…何かと思えばくだらない。
　話すことで何か解決するかと思ったか？
　我らの掟は弱肉強食。弱いモノは死んでいく定めにある。
　お前も強くなれば良い話だろ？自分の食べ物ぐらい自分で調達できなくてどうするのだ？」

「いえ、私は弱いモノも大切にする社会こそ」

言い終わらないうちに遮る様にあの声が響く。

「何だ？その理想論でしか無い言葉は。
　人間は確かにそうあるべきものかもしれない。何かと共に生きる社会だのの言葉に弱いからな、人間は。
　実際出来ているのか？逆に差別ばかりしているでは無いか？
　人間も薄々は気付いているのだよ。弱肉強食の掟をな。弱いモノがいるからこその自分。自分が生きていく為には犠牲もしょうがない。」

「だけど一人一人がしっかり今は理想論でしかない事を、実戦する事によって広まるかと思います」

「広まるかと思う？
　確信無いじゃないか。一人のその意思だって簡単に変わるもんだ。
　人間など弱いくせに威張り腐った種族は我は好まん。
　それに人間の理想論をここに持ってくるな。竜には竜の掟がある。根本的に違うモノ故、話にならん。
　…もういい。うんざりだ。早くここから立ち去れ。今なら生かして返すぞ？」

もう聞く耳はもたない、という風に最後の言葉には特に力を込めて言った。
私は一礼をして引き返す事にした。
頭が回らない。
一概にそうじゃない人間もいると言いたいが、彼らにはそれが分からないだろう。
何処にいると聞かれれば答えられないし、見せることも出来ない。

…『見せる』？そもそも、竜と対等に渡り合える程の力を手に入れればいいのだ。
私も何か力があるという証拠を見せればいいのではないのか？
それならば私にも考えがある。とある島に渡って宝玉を手にすればいいのだ。
今からでも手に入るのか？……
手段は…この際だ、問わなくていいだろう。

思ウ存分、ヤッテシマオウ

黒い絵の具をそのまま塗ったような洞窟の中が呻いた気がした。
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