ENo.887 土蜘蛛

気付けば春休み目前。
夏休み以降、奏撫も葛築も通常の授業にほとんど出ない為体っぷりは3学期中も続いてる。

それでも学校が大目に見てるのは
お屋敷の側でこうした事態を見越して設立から資金援助こみで関わり持ち続けてきた私立校であり、
交通事故で大怪我してとか(戦闘の怪我写真添付で洒落にならないリアリティ)
病気で(一時本当に葛築は体調崩して熱出した。医者の見立てではおそらく妖力酔い。
「ま、いわゆる成長痛の一種だね。魂に潜む祖霊や妖の力が急成長して、肉体とのバランス崩れたんだろ。
暫くは熱上がったり下がったりを繰り返しながら…そのうち落ち着くはずだよ。」[背後注：いきなり神聖Lv6にするからーｗ]）とかと、
真実3割大げさ7割で休む理由ぶっちあげつつ
駆け込みで受けた期末テストの成績が教師陣の想定をはるかに超えて良かった（魅月嬢に感謝！）為と思われる。

試験休み終わっても学校に来ないもんだから。
奏撫のクラスメイトで小学校からの顔馴染でもある友人二人が様子見兼ねて、学級プリント届けに来たりもする。

実はこれが一番困る。

見慣れぬ女が二人、隠れ里の外周をうろついてると屋敷に連絡が入り、
結界緩めて屋敷出入りの女中さんに迎えに行ってもらい
その間に
急ぎ、葛築のスマホに呼び出しをかけー…

森林を抜け、山間部へと突入する。
出没する害獣や無法者の危険度も当然上がるので、より警戒心を研ぎ澄ませて進まなくては…
そんな状況の中で、
「かなちゃん、ちょっと。急いでこっちきて！」
「ぇ・・・？何？どーしたの？」
葛築が奏撫の手を引っぱって仲間から離れ茂みの奥へと。

「む？葛築、何処へ行くつもりだ？この先は危険だから単独行動はー…」
見咎めたアーヴィンが後を追おうとすると、
「すみません、ちょっと連れション行ってきます。すぐ戻りますからご心配なく。」
「んなっちょっ！！？？！１１！かづ・・・っ！！」
内容の割に淡々とした声の葛築の発言と、
顔を真っ赤にして目を吊り上げるのが容易に想像できそうな奏撫の半悲鳴を残して二人の気配が消える。

「プリントありがと。
でも道迷って大変だったでしょ？
いつも言ってるじゃんー、来るときはメールちょうだいって。そしたら迎えにいくからってさー。」
友人が着く寸前に戻りが間に合った奏撫と葛築。
内心冷や汗ものである。
自分らが家に居くてもいざとなれば病院いってたとか、実は仮病なのてへぺろっとかいくらでも言い訳できるが、やはり出来るだけ不自然な状況は避けたい。

『ごめん。…お手伝いさんもごめんなさい、お手数かけました。』
『かなちゃん、なんかいつもより怒ってる？』
「え？いやいや、別に怒ってないﾖ。
いや、今さっき怒ったけどそれはバかづきに対してだから・・・気にしないで？」
奏撫の部屋まで友人二人を無事送り届けた女中さんは口元に儀礼的な笑いを浮かべ慇懃に一礼し、出てゆく。

『なんでいっつも迷うかなーっ。もう何度も来てるから道覚えてたつもりだったのになぁ。』
『ねー。
バス停まではオッケーなんだよね。そっから先…迎えに来てもらえばあっさり簡単な道筋っぽいのに…自分で行こうと思うと解らなくなるんだよね？』
「あはははは・・・うち田舎だからね。
田んぼと曲がりくねった農道と竹藪とーって似たような景色ばっかで天然迷路？みたいな？」
乾いた笑いで誤魔化す奏撫。
ここは土蜘蛛一族の住まう隠れ里…当然結界が張られており、通常、一族の者と昔から一族と関わってきた里の住人以外は許可なくして入れない。

「だからいつも来る前に連絡入れろって言ってるだろ。
そのうち迷子になったまま失踪しても知らねーぞ。」
葛築がケーキと紅茶を乗せたお盆持参で部屋に来た。…うっすらと左頬に平手の跡が。

「コラかづき！なに生意気に乱暴な口利いてんのっ！」
『あははは、いいってかなちゃん。
・・・他の男子だったらむかつくけどさ、かづ君だしー。』
『そうそう、所詮かづ君だし。クソ生意気盛りの弟みたいなもんだよｗｗｗ
久しぶり〜。かづ君のクラスの連絡と課題ノートも預かって来たよ。』

「…ああ、ども、ありがと。」
奏撫の馴染って―ことは、葛築の馴染でもある。
小学生低学年時はおままごとの相手やリアル着せ替え人形扱いされた仲である。
「用事はそれだけ？…じゃ、ごゆっくり。」
ノートを受け取ってそそくさと部屋出ようとした葛築の足に、女の子の目が留まる。

『かづ君…その爪、ナニ？』
急いで私服に着替えたので靴下履き忘れて素足の葛築。
「ん…これかぁ……かなちゃんにつき合わされた。それだけ。」
彼の左足爪が上物のネイルストーンを駆使し綺麗にアートでデコられてて…
眉根を寄せどう説明するか迷い…言い訳は奏撫に丸投げして出て行ってしまう。

『かなちゃん？』
「えーーとね、あたしとお揃いみたいな？」
奏撫が右手を見せ、葛築の足爪に貼ってあったのと同じラインストーンのネイルアートを示す。
『わあ、きれー。…でもこれ校則やばくない？』
「んとね。知り合いのお姉さんがネイルアートに凝っててね。
えーと、その人、おまじないにも凝っててね？この石が魔除けとゆーか元気のお守りみたいな？効果あるからって。
でね、2つセットになってるからかづきにもデコろうかって、でもかづき嫌がって、靴履けば見えない足ならばって・・・
ああなったんよ。」
しどろもどろに説明する。出まかせの言い訳臭いが、嘘ではない。
異世界で知り合った銀さんってお姉さんが呪術に詳しく、本物の魔除けに使える石でネイルアートしてくれたのだから。
組んで戦ってるなら奏撫だけでなく葛築にも同じ施術処理した石を組み込んだ方がいいと言ってつけさせたのも、葛築が足ならばと妥協したのも本当。
『あんたたち学校休んで何やってんのよ』
「あはははは・・・まあ、内輪でなんかいろいろ都合ってもんがあるのよ。」
じと目で睨まれて、愛想笑いで誤魔化す。

『ねえ、かなちゃん』
帰り道。バス停まで同行する奏撫にこそっと耳打ちをする。
「？」
『かづ君ってさ…経験済みだったりするのかな？それともまだドーテー君？』
「！？・・・しっ知らないわよそんなコトっ！！本人に聞いてよっ！」
想定外の質問されて大声になりかけ、慌てて小声に直して答える奏撫。

『ちょｗｗｗ当人に聞けるわけナイでしょ〜そんなコトっｗｗｗだからかなちゃんに訊いてんじゃない。』
「だから知らないって。つかふつーに・・・童貞なんじゃないのっ？」
他に人気の無い田舎道。女の子同士の妄想猥談に突入だー。
『じゃあさ、じゃあさー、』
「なによ？」
『かづ君って………まだ処女だと思う？』
『うわっどうだろｗ案外経験済みだったり？ｗｗｗ』
「処女に決まってんでしょっ！かづきは処女よっ！！」
『ちょっとちょっと、かなちゃん声っ大きい！！』

「……おまえら、往来で人の名前使って変な会話するなよ。」
後を追って来たものの声をかけるタイミングを遺っしてた葛築だが、さすがにこれはボヤキ口調でストップかける。

『え？わ、キャー！！』
「ちょ、なに、なに勝手に人の会話聞いてんのよスケベっ！」

「忘れ物してたから追ってきたのにスケベ呼ばわりは心外だ。」
『え？ゴメン。』
『何か忘れてた・・・？』
「忘れ物というか…渡し忘れ物。
はいこれ。急だったから間に合わせで悪いけど。」
急ぎ購入したホワイトデーラッピングされたお菓子を手渡す。
『あ・・・ああ。わざわざ用意してくれたの？(・∀・)』
『ありがと。いいのに別に。(＾∀＾*)』
「こーいうトコまめねー、かづきはー。」
「女の子に不義理すると後々厄介だって身に染みて解ってるからね。…誰かさん達の御陰で。」
間に合わせ…確かにコンビニシール貼ったままで[今さっき買ってきました感]溢れる品なのはご愛嬌だろう。

女の子達は渡されたお菓子を眺めながら暫く黙って歩いてたが、ちょい悪戯っぽい笑みが浮かび
『ね、ね、かづ君。
…さっきの聞かれたついでに訊いちゃうけどさー』
『ちょっマジ訊くの？止めなよーｗ！！』
『いいじゃん、冗談なんだし〜。ねえ、かづ君ってしょ…』
懲りないわきゃわきゃ空気復活。

「処女な訳無いだろ。」
葛築はそれを止めるつもりで先回りして答えたが、
まてそれは地雷だ。

『ぇ？』
『・・・ぇ？』
「ぇ？ぇ、ちょ、かづきっ処女違うってあんた・・・（汗」

「僕は男なんだよ？（男に処女はありえないだろーがの意）」

『キャーーｗｗｗマジで！？（男だから処女失っても気にしてないの意で受け取る）』
『相手はっ相手きいていいっ？』
「ちょっっっ皆落ち着いてっ！なんか、なんかおっきな勘違いしてるっ！！そんな気がするーーっ！！」
『えー？だってさかなちゃん、かづ君本人が……‥…』
「いやいやいや、ありえな…‥…＆#8265;」
『そりゃーね、まさかとは思うけどさ。意外と…？‥…＆#8252;』

：説明しよう！：
男に対して使う処女＆非処女とはー…
腐女子の隠語でー…
とある箇所を掘られた経験があるかどーかっていうー
この説明で解らないキミは真っ当で明るい道を歩んでいる証拠です。
無理して理解する必要はございません。

葛築は真っ当で明るいお子様街道だけを歩んでる訳ではないけど、
自分に向かって処女訊かれる意味までは解らず。
「……あー、女子同士で盛り上がってるみたいだから僕はもう帰るよ。
送らなくて…いいよね？かなちゃん居るし。」
でも何か決定的に間違えた返答をしたのは感じ取れたようだ。

「え？ああ、うん。・・・もしかしてホワイトデー渡すのより送ってくのがメインだった？
うん、大丈夫。ちゃんと村の外まであたしが送ってくから。」

セルフォに戻るとこっちではまだ10分と経っていない。
それでも連れショ…にしては時間がかかり過ぎで、待ってた天藍は怪訝な顔で出迎えた。
――アーヴィンは待ち時間を利用してこの先の偵察に行ってるらしい。
「戻ったのか。…遅かったな？」
「うん、……かなちゃんは大きい方だったかｒ（ゴスっ！！」
「そーゆー言い訳はヤメロって言ったでしょ！バかづきっっ！！」