ENo.2806 シェリエール=I=リーゼレット

アンジニティ漂流記録

焔の月 1日目

シェリエール=I=リーゼレット

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「……此処、どこだろ」

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　なんか薄暗くて不気味で見たこともない場所に、私は居た。
　なんで知らない場所に居るのかって？飛ばされてきたからよ。

　……いや、正しくは『自分で飛んできた』のかもしれないけれど、そこはほら、誤差よね。
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「ま、何とかなるでしょ」

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　あぁ、説明が途中だったわね。

　ちょっと召喚魔法に工夫をしようとしたら、失敗して自分がまきこまれちゃった。
　そしたらあっという間にここにっ！

　まぁ、来れるんだから出られる、と思ったんだけれど、なぜか逆召喚魔法が上手くいかないのよね。
　仕方ないから人を探して歩いているところなんだけど……
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「……ん、あれは……街……？」

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　視界の端に、うっすぐらーい中に、ちょっとだけ明かりが見えたような気がして。
　よーく目を凝らすと、確かに小っちゃく建物が見えたり。

　……殆どゴーストタウンにしか見えないけれど、まぁ、明かりはついているから大丈夫……よね？
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「んー、いいや、失うものは何もなしっ。ヒントみたいなものがあればそこに特攻すればいいのよ！」

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---否定の世界

タルタス

アンジニティ(Ansinity)---

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「……うっわぁ……」

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　人は確かに居た。まだ一応機能している街、らしい。

　けれど、どう見ても街には見えない。
　不衛生で、人々もまばら、商店も少ししかなく、そこで売っている物はとても食べれそうにないような物ばかり。

　なにより高い。私は今のところ一文無しだからして、とてもじゃないけど……
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「……あ、そんなことより、よ」

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　そう、此処が何処か、ということが分からなければどうにもならないのである。
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「あ、そこ、そう、そこの人！」

「あん？　何か用か？」

「此処がなんて言う場所だか分かる？」

「おい、俺の事バカにしてんのか？」

「ち、違う違う！　ちょっと召喚魔法の事故で飛ばされちゃって、何回試しても逆召喚魔法が発動しないから変だなぁ、と思って！」

「ん……あぁ、そりゃご愁傷様なこった」

「……？」

「此処はアンジニティ、否定の世界だ。聞いたことぐらいはあるだろう」

「……えっ？」

「……あぁ、アンジニティ、タルタスの街さ。この世界のどこに行っても逆召喚なんてできやしない」

「……そ、そんなぁ……」

――――
　アンジニティ、否定の世界。

　文字通り「世界」各地の凶悪犯罪者などが送り付けられる、言わば「牢獄」の世界。
　この世界は基本的に転送系が一方通行で、中に入ったら最期、二度と外に出ることは出来ない。

　だから、外の世界は基本的には安全だし、アンジニティでは犯罪者同士でやり合っていて双方幸せ、ということになっていた。

　なっていた。

　そして私は、その犯罪者の巣窟に、二度と出られない牢獄に、自分から飛び込んだ、と。
　どうやらそういうことらしい。

　そう、それはつまり、私はもう帰れない、と。そういうことで。
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「……どうしよう……」

「どうしようもないわな、覚悟しとけや」

「そんなぁ……」

「……一応、一応な」

「……何？」

「これは聞いただけの噂だし、とても確かめに行こうなんて思わないんだが……」

「じれったいわね、言いなさいよ早く！」

「……この世界のどこかで、外の世界に脱出できる『穴』が見つかった、らしい」

「……ど、どういう事よ」

「もしそれが本当なら、そこまで行けば外には出られるだろうな。本当なら」

「……へぇ、帰りたいなら探せ、と」

「そうなるな、お勧めはしねーけどよ」

「……ま、ありがとね。とりあえず現在地が分かっただけでもまだ良いということにするわ」

「おう、死ぬなよ？」

「言われなくても早々死にゃしないわ」

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　とは言ったものの。
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「……えぇー……」

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　アンジニティ、そう簡単に生きていけるような世界でもない。
　勿論、脱出なんてそうそう出来る話ではない。
　まずあの噂が本当かどうかすら、分からないのだし。

　ただ、脱出の望みももうその噂に頼るしかない。
　それは、この否定の世界でも否定できない紛れもない事実で……
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「ま、何とかなるでしょ！　今までだってどうにかなってきたしね」

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　と、自分をいつもの言葉で励まして、今日寝る場所を探すところから始める……

　結局、建物の屋根の上で少し横になっただけだけど。
　それでも、街の中は一応安全らしく、此処に居れば襲われることもなさそう。

　しばらくはこの辺で情報収集……かな。
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「……さて、と。寝といた方が良いわね。おやすみなさい」

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　いつもなら皆から返事があるのに
　今日からは寂しい独り言。

　……ちょっと心細いけれど、もう一度皆の声が聴きたいから、
　皆の顔が見たいから、皆と他愛もない話をしたいから。

　……だから、私は帰る。
　そう、心に決めて。

　飛ばされたこの世界で、何があるかは分からないけれど
　諦めなければ、物事はきっと叶う。そういう風にできているから。

　……だから、おやすみなさい。

　それが、また皆と会うための第一歩になるから。
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