「世界間の移動くらいなら俺なんとか出来っけど」 「マジで」 　その日の遺跡の探索を終え、地上に戻った夕暮れ時。 　ひょんなことから《海底探索教会》への道を同行することとなったアルストリアは、こともなげにそう言った。 　たぶん無理だと思うんだけれど、魔法使い、しかも異世界からやってきたらしいアルストリアであればひょっとすれば——、そんな駄目元の思いで尋ねてみた慧は、実のところまったく想定していなかった回答を得て、目を皿のように開いたままやや裏返った声でそう問い返した。 　アルストリアは頷く。 「ルートの解析さえ出来ればな。こないだの海での件もないでもないし、その辺分かるモンがあるなら手伝ってもいいけど」 　ルートの解析とは一体なんなのだろうか、とは一瞬思ったが、きっとそのあたりを聞いても理解出来ないと思い直して、慧は手持ちの荷物をごそごそと探り出した。通学に使うカバンがあり、筆記用具とノートとダイスとを順に追って、《Seven Seas TRPG 基本ルールブック》に指を掛け、首を傾げてからそれを引っ張り出した。取り出したその大判の書籍を、そのままアルストリアに差し出す。 「オレ正直全ッ然そういうの分かんないけど、強いて言うならこれがいちばん怪しい」 「分かんねえのかよ。まあいいや貸して」 　アルストリアは《ルールブック》を手に取ると、ぱらぱらとそのページをめくりだす。適当なページで文字を追うかのようにつつと指を滑らせたり、なにも書かれていないページをじっと穴が空くほどに眺めたりの末に、ぱたんと本を閉じて彼は口を開く。 「なんとなくわかった」 「マジか」 　左手に《ルールブック》を広げて持ち、右手にしたマグナトリアと名を与えられた杖の先を海面へと向ける。杖の先の青い石が煌と燐光を放ち、静かだった海面がなにが触れるでもなしにさざ波だつ。一節、二節、呪文の詠唱であろう言葉が魔法使いの口から紡がれるに従って海はその波紋を広げ、そして蛇のように空へと向けて水は踊り出す。意思をもってでもいるかのように、くるくると螺旋を描く水は次第にその色を赤く暗くその色を変えていき、そしてまた海に沈み込んで紋様を描く——…… 　……数分ののち、ふう、と息を吐き出したアルストリアは、《ルールブック》を閉じて慧にそれを差し出すと、くいと親指で海面を指差した。海の上には暗く赤紫色のインクを落としたかのように精緻な魔法陣が描かれていた。 「ほい。出来たぜ、アレで帰れると思うぞ」 　異界への転移門。 　世界と世界を繋ぐだけの強大な魔力の奔流が門に封じ込められ、魔法の素養など持つべくもない慧にも分かるほどに、その肌をびりびりと叩く。 「ほああああ」 　こともなげに言うアルストリアに、慧は圧倒された様子で間の抜けた声を絞り出した。 ◆ To be continued...

ケイはアイテムNo.5 シェルボックス（低） を使用した。

	穏やかな海《セルリアン》

穏やかな波、暖かい水温。太陽の光を透かし、キラキラと輝く水中に、
光とともに舞うように鮮やかな熱帯魚達が珊瑚礁に集まる海域。

この世界の窓口である探索者協会からも程近いこの場所は、
色々なところから集まってきたバカンス目的の観光客や、
これから冒険に挑もうとするものたちで賑わっている。

比較的凶暴な生物もいない、穏やかな、冬でも温暖の海である。

遺跡探索

ケイは、この世界の探索者としての一歩を踏み出した。
海底に沈む遺跡の探索——。

誰もがこの海の、この遺跡から冒険の一ページを刻み始める。
とはいえこの辺りはまだまだスタートライン。

もっとこの世界に眠る、謎や宝や未知の生物を目にしたいと願うなら、
このセルリアンの遺跡を抜け、さらなる海域を目指すといいだろう。

海はまだまだ遠く、広がっている。