目を開ければ、海の中に揺蕩っていた。 海の中で呼吸ができる。そのようなことは、人間のなし得ることではない。 どうやらわたしは、人の身から外れてしまったらしい。 死んだ、ということをすぐに理解した。 参ったな。一人苦笑して頬を掻いたら、指の感触が頬に無かった。 驚いて、見ると、そこにあったはずの手が無い。両の手が無い！ 片方だけならまだしも、両の手が無いのには絶望した。幽霊には足が描かれないが、まさか手が無いとは。 ぽっかりと昏い穴からは無常に泡が立ち上っている。これでは、どうやって人を診たら良いのか分からない。 医術は聴く他に触って診るというのも重要視されている。それなのに、これでは人を触ることなど、叶わないではないか！ わたしは失意に呑まれ、海を漂う。 その内に、そもそも死んでしまって幽霊なのであるから、人を診られるかどうかなど分からないではないかと気付いた。 ……幽霊であるわたしを見られる人が居るのかすら分からない。水が冷たいかすら、今のわたしには分からないのだ。 それに気付くまでに、どれだけの時間を費やしたろう。クスクスと笑いが漏れる。 その時、ある女が私に話しかけてきた。人と魚を融合させたような女だ。 わたしが驚いて見ている内に、どういうわけか石を渡され、それもどういうわけかちゃんと持てた。 女曰く、ここは てりめいん という所であるそうだ。その中の海底探索協会というところに、わたしは漂っていたそうだ。 海底探索協会には人が沢山集まっていた。見たことも無いような衣を着た者が大半で、それらは紅毛人とも南蛮人とも違うように見えた。 ぼんやりと突っ立っていたら、女——名を ろざりあ というらしい——が笑顔で何かを連れて来た。 「さあおまえの力を見せてもらおう」 いやその前に貴様の顔がどうしたんだ。 別に顔の美醜に拘るわけではないが、それでも人間とは思えない顔をしている男（多分）だった。 悪相をした罪人は幾らも見てきたが、これはそれらからまた外れた、なんとも言えない……いやいや待て、この女も人ではないようだ。ならばこの者も人間ではない。よし。 彼は おおく という名前らしく、今からわたしは彼の洗礼を受けるのだそうだ。海底探索にはそれが必須であるとのことである。 「いや待て。わたしは別に……」 言いかけて、わたしの脳裡にある光景が広がった。 それは、わたしが助けに行こうとした罪人の顔だった。 彼は、あの後どうなったろう？　そうだ、彼を助けなければならないのに、わたしという者は……。 「良いだろう。貴様の挑戦、受けるとしよう」 あの罪人がどうなったのか。それだけは知りたい。海底を探索する理由がわたしにはあるではないか。 わたしは ろざりあ に杖を借りると、腕だけでそれを操った。杖術には覚えがあるから、これでなんとかなるだろう。 数分後、そこには顔を真っ赤にして息を整えている おーく が居た。 彼は海中でも呼吸が必要な者だったらしい。命に別状は無いが、手当だけはしてやった。なんだか彼がかわいそうだったからだ。

馨庵はアイテムNo0 【味○人以下】 を使用しようとしたが、効果がなかった。

	穏やかな海《セルリアン》

穏やかな波、暖かい水温。太陽の光を透かし、キラキラと輝く水中に、
光とともに舞うように鮮やかな熱帯魚達が珊瑚礁に集まる海域。

この世界の窓口である探索者協会からも程近いこの場所は、
色々なところから集まってきたバカンス目的の観光客や、
これから冒険に挑もうとするものたちで賑わっている。

比較的凶暴な生物もいない、穏やかな、冬でも温暖の海である。

遺跡探索

（あなた）は、この世界の探索者としての一歩を踏み出した。
海底に沈む遺跡の探索——。

誰もがこの海の、この遺跡から冒険の一ページを刻み始める。
とはいえこの辺りはまだまだスタートライン。

もっとこの世界に眠る、謎や宝や未知の生物を目にしたいと願うなら、
このセルリアンの遺跡を抜け、さらなる海域を目指すといいだろう。

海はまだまだ遠く、広がっている。