——その頃、この一揆の出発地点である王城前では、今日も参戦者の選別が行われていた。

この世界で一揆が開始されてから数週間が過ぎたが、未だ参戦せんとする者は後を絶たない。
それだけ王に不満を持つ者が多いという事実は選別を行う二人——ルリアンナとラルフ——にとって喜ばしいことだろうが、しかし不満や義憤だけではどうにもならないのもまた、現実である。
武器となるネクターには限りがあり——それ以上にこの戦いで命を落とす者は、一人でも減らしたい。
ラルフは、そう考えていた。

そのように最初の番人となる彼が確固たる意志を備えていたせいか、資格を得られなかった者も多かった。
元々後発組のほとんどは、初日から現れた刺し違えるほどの覚悟を持つ者達と違って戦況の変化に影響を受けた、漁夫の利や栄誉や名声を狙うような者が多く、その実力は手合せをするまでもなく劣っていた。
またそう言った目論みがない者でも、やはり村一番の力持ち程度では平原の魔物の餌になるのがオチだろう。そんな彼らも百戦錬磨である彼に力量の差を見せられ、才覚のなさを見透かされ、資格を得ることはなかった。

彼女も、そのような者達の中の一人だった。

雄叫びと共にくり出したタックルが、相対する相手を易々と撥ね飛ばした。
実践形式とはいえ力量を測るための手合せだ。日に多くの参戦者を見なければならないということもあって、少なくとも全力の半分も出していない。
にも拘らずこの挑戦者は、避けることやいなすことはおろか、受け身すらとっていない。
戦う力がない。それが傍らで見ていたルリアンナにも解ったのか、未だ立ち上らないその者に駆け寄った。

不合格と告げられルリアンナに支えられながらも、食い下がる。そんな彼女からはエンブリオの気配が感じられなかった。
エンブリオを持たず、この世界の物ではない見慣れぬ装い。挑戦者は異世界から来た者だった。

ルリアンナの言葉を遮り、彼女は再び“懇願”する。
痛みはまだ引いていないようで、一人で立つこともままならない。
それでも——と、彼女は顔を上げた。

案の定、小声でシロに耳打ちしてはいたが、
隣にいたミルフィーユの耳にもばっちり届いていた。

今まさに斬りかからんとする勢いで、手にしていた大鎌を振り上げている。

ジタバタと暴れるミルフィーユを必死に制止するシロ。
しばらくして、シロの力に負けたミルフィーユが、
肩で息をしながら鎌を下した。

服を着たまともな姿はまともな姿で、先ほどの光景が蘇るのか
ミルフィーユは目をそらしながら言う。

そう言ったあとに、セキニン取ってもらうしかないと笑う青年に、
ミルフィーユは目を丸くした。

未だに顔を赤くさせて、ミルフィーユはそっぽを向いた。

ここまでなんか謝られても、なんか、困る。
人目あるから、別にそんな謝らなくていいよ、と宥めつつ。