・゜・*:.。..。.:+・゜・*:.。..。.:+・゜親愛なる我が娘、ミルフィーユへ:・*:.。..。.:+・゜・*:.。..。.:+・゜・


先日血相を変えて戻ってきた従者に事情を聞き、急ぎ筆を執っている。
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命に別状は無いとは聞いたものの、やはりいてもたってもいられない。
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重い怪我はしていないか？酷い目に遭ってはいないか？
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お前のことを想うと、心配で胸が張り裂けそうな気分だ。
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10年以上も前の、あの事件を思い出してしまうよ。
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やはり、旅になど出すべきでは無かったのかもしれないな…。
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全く、一揆などという騒ぎに便乗する悪漢は、どこにでも居るものだ…。
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お前の友達の無事も確認したとは言っていたものの、
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ケガを負っただけではなく、持ち物を強奪されて、
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それは大層酷い目に遭ったと聞く。
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葉月君も例外ではないのだろう？
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葉月君がいながら、このような目に遭ってしまうとは……
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私が買いかぶりすぎていたのか、いや、それとも呪いの影響、か。
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彼の父は立派な騎士だった。
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我がシューノワール家に、立派に仕えてくれていたよ。
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やはり、彼は父をまだ越えてはいないのだろうかね。
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彼には、秘めた力があると私は見ているのだが……。
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そうだ、しばらく、こちらも忙しくなってしまう。
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手紙も、今までのように頻繁に書けるかどうかわからない。
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しかしなるべく善処はするつもりだ。
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私もミルフィーユとの手紙のやり取りは、
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今や生きがいといっても過言ではないからな。
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くれぐれも気をつけ、特に人通りの少ない場所は避け、
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夜道は出歩くんじゃあないぞ。
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私達はいつでも、お前のことを想っている。
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父、母より　　　　愛をこめて
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今は離れ離れでも、従者が定期的に届けてくれる手紙を読むだけで
どこにいようとも、繋がっているのだと安心する。

手紙を読む表情が、よほど酷く、泣きそうだったのか。
手紙を届けてくれた従者が心配そうにミルフィーユに声をかける。

じ、と従者の顔を見て、ミルフィーユは小さく首を横に振った。

前を向いてキッパリと言うミルフィーユを、目を細めて従者は見つめた。

今日、手紙を届けてくれたこの初老の従者は、
ミルフィーユが生まれた時から、シューノワール家に仕えていた従者だった。

我が子を見守る父のような、
優しい眼差しでミルフィーユを見つめる。

手にしていた手紙に目を落とし、少し寂しそうに呟く。
領主という立場上、毎日忙しいのは理解しているつもりなのだが。

遠く、離れた故郷。
暖かい我が家の、父と母に思いを寄せる。

そういいながら、従者は深々と頭を下げた。

そして何かを思い出したように、ぽん、と手を打つ。

きょとん、とした顔で従者の顔を見る。
見慣れた、人当たりの良さそうなその従者の顔を見ると、心なしか安心する。

エイジス……。

懐かしいその名の響きに、ミルフィーユはぱっと顔を明るくする。
彼女にイチから錬金術を教え込んだ、錬金術師の名前であった。

その素性は、女性なのか男性なのかもわからない。
ただ、強力な錬金術を使う錬金術師である、と囁かれている。

懐かしい、師匠の顔が浮かぶ。
頭の中に浮かぶ、その中性的な顔立ちは、
不思議なことに歳を重ねても変化が無かった。

正体は不明ではあるが。
それでも、ミルフィーユが小さなころから、
ずっと錬金術を手ほどきしてくれていた師である。

嬉しくないはずが無かった。

折り目正しく、深々と一礼する従者をじっと見つめて、
去って行く背を見送るミルフィーユ。

いつもなら、その背にさみしさを感じるのだが、
先ほどの師の話がミルフィーユを心強くしていた。

それでも、もしこっちに来ているのであれば。
この先の旅にあった不安が、少しは消えるだろうとミルフィーユは喜んだ。

人狩りに出会った事、先日、旅の仲間が一人いなくなったこと。
色んな思いが、この先を不安に駆りたてていた。

自分を戒めるように、ぎゅっと拳を握る。

ミルフィーユは手紙を大切そうに仕舞い、
その途中にふ、と、書かれていた内容を思い出す。

ふと、小さく浮かんだ疑問は、むくむくと膨れ上がっていく。
聞いてみるべきか、否か。
一人になったその場でうろうろと、右往左往しながら考える。

ポケットに仕舞い込んだ手紙を服の上から撫で、考えを巡らせる。
…しかし、答えは中々出ない。
ミルフィーユにとっては、知りたいことではあるのだが。

ふう、と息を一ついて、一度だけ従者が見えなくなった道を振り向いてから
ミルフィーユも仲間のもとへと足を向ける。

今、自分が帰るべき場所はこちらだ、と言い聞かせるように。

少女はちょっと困ったように笑っている。

と言いながら、ミルフィとシロが味見をしているのを見ている。
シロの美味いという言葉に対して、

ハチミツをぺろりと舐める。

シロからピーマンを受け取り、どさっと入れた。

少女の一挙手一動を見つめ、ちゃんと飴を受け取ってもらえたことに内心ホッとしつつ、その後うつむく少女を見ると立ち上がり、背を向ける…。

周囲の警戒しつつ…なるべく少女の方は見ないように気配にだけ気を配る、少女がある程度落ち着くまでそうやって周囲の警戒を続けている事だろう。

そろそろ落ち着いただろうか、しばらくたった後、背を向けたまま話しかける、口寂しくなったのか、自分も飴を食べながら。

言いつつ背を向けたまま、カラン、と和手拭いと飴の缶を差し出す。

シロの言葉に苦笑を浮かべつつ、肩を竦める。

近いうちにお見せ致しましょう、と頷いた。
そしてそのままミルフィーユとシロのやりとりに目を眇める。

自分にはどうだったのだろう、この二人の様な関係の相手が居ただろうか。頭の片隅でそのような事を考えつつ、

シロさんが強いのではなく、二人ともお強いですね。そう呟きながら改めて目の前の二人を見て目を細めた。

お辞儀され、ぺこりと会釈で返した。
……が、その次に飛んできた問いを聞いて目をぱちくり瞬かせた。

申し訳なさそうに答えた。

少し慌てて、様子を窺うように。

竹の包みを開く。おにぎりが3個。
自己申告の通り、形はいびつだし
食べればボロボロと米粒がこぼれて来そうな出来だ。

指差しながら中身を説明していく。

君たちが広げたものを手に取り、

二人の反応に少し笑い、

エシャロットやシロの話を聞いてますます興味を持った様子で、わくわくとするように炎を揺らしていた。

目を輝かせてアップルパイの話聞いているのであった。
この二人に極上のアップルパイを食べさせれば幸せ間違いなしだ！

長刃を振り、血を拭った。