[？？？]


——気が付くとぼくはそこにいた。

目の前に広がっているのは見知らぬ風景。

ぼくはいつからここにいたのだろう？

ぼくはこれまで何をしていたのだろう？

思い出せない。

思い出せない。

今いる世界も。

過去の記憶も。

そして自分の名前さえも。



ぼくは途方に暮れ、虚ろな目でその場に座り込む。

どれくらいの間そうしていただろうか。

ふと気が付くと、隣に見知らぬ男の人がいた。
彼は不思議なものを見るような顔でこう尋ねてくる。


「お前さん、こんなところで何をしてるんだい？」

「分からない」


ぼくは思ったままの簡素な答えを返す。


「分からないってお前さん、自分のしている事だろう？」

「うん、でもやっぱり分からない。気付いたらここにいたんだ」

「むう……」


相槌を打ち、彼は少し考えるように遠くの方を見た。
ぼくもそれに倣って遠くの方を見る。

どれくらいそうしていただろう。
やがて彼は「そうだな……」と言ってぼくの方を見る。
ぼくも視線を彼の方に戻す。


「……行く所が無いのならうちに来るか？人手が欲しかったところだ」


彼はそう言ってぼくに手を差し伸べる。

僕は少し考えた後、その手を握った。




・〜・〜・〜・〜

窓からは日の光が射し込み、カーテンは緩やかに揺れている。
朝、そう朝だ。

僕は寝起きの頭でついさっきまで見ていた夢を振り返る。
いつもと違う不思議な夢だった。

僕は彼を知っている。
そう、彼は確か——

不意に聞こえた声に顔を上げると、部屋の入口にフェリオの姿があった。
どうやら僕の様子を見に来たようだ。

僕はベッドから降り、フェリオとともにリビングに向かう。
今日も一日の始まりだ。




・〜・〜・〜・〜

先程朝食の際に医者から受けた依頼に出てきた言葉について僕は尋ねる。

一種の祈祷的な風習なのだろうか？
叶うかどうかは別なんだろうけどこういうのはやる事に意味があるような事をどこかで聞いた気がする。

・〜・〜・〜・〜

ここは妖精の森。
村の人達は毎年妖精の森の妖精達に七夕用の竹を貰いに来ているのだとか。
僕達は妖精の森への道を知らなかった為、今回は別の一揆参加者と一緒だ。


僕は歩きながら辺りを見回す。
今まで歩いた森とは異なり、不思議な空気を感じる。
もしかすると特別な場所なのかもしれない。


そして森は奥へ奥へ続く——

触れやすいように、肩を差し出す。