とある昼下がり。

扉の前にはシェリーが仁王立ちをするかのように佇んでいる。


その扉の向こうで何が起こっているかというと、話は少し前に遡る。

——といった感じで、現在扉の向こうではシフォンが何かをやっている……らしい。

それから数時間が経つが、まだシフォンが出てくる気配がない。
ふわもこ達は何か察しているようで、何かを楽しみに待っている、といった感じだ。
尋ねてみても「何、待っていればわかるさ」と言うだけで教えてくれなかった。
まぁ、秘密と言ったシフォンの意思を尊重しているのかもしれない。

そんなこんなで小一時間が経った後、ついに扉が開かれた。

そこに現れたシフォンは別人——いや、別ふわもこと言っていいくらいに姿が変わっていた。

姿は違えど、その声や話し方はやはりシフォンである。

何か納得したようなシフォンに対して、僕は頭の中がハテナでいっぱいになっていた。

そんな僕の様子を見たシフォンはそう言ってふわもこ族の持つ特殊な力をかいつまんで説明し始めた。
纏めるとこんな感じだった。

・ふわもこ族は他のエンブリオの力を身に宿し、そのエンブリオとして存在をしている

・ふわもこ族が身に宿す事ができるエンブリオの種類には個々の差はあるが大体複数の力を宿す事ができる

・ただし宿す力にも相性があり、場合によっては身を滅ぼしうるため、ふわもこ達は力を得る際には慎重になる

・相性は種族的、属性的に近い場合は良好とのこと。

・ふわもこ族の容姿は宿している力が大きいほど、その影響を大きく受ける。

・成長し、身に宿せる許容量が大きくなってくると、複数の大きな力を有する事ができる。

・複数の大きな力に身体が慣れた場合、力の影響を調節して自分の容姿を変える事も難しくはない

シフォンの話を聞いた僕は驚きを隠せなかった。
自身の特性を変質させる——そのような事ができる生物は決して多くはない。
何故ならばそれは自分の存在を曖昧にしてしまう恐れがあるからだ。
だからそれができるという事は自身を明確に理解し、それが絶対にぶれない事を示す。

カイルはシフォンに敬意を表すようにそう言う。
やはりふわもこ族としてもこれは凄い事らしい。
他のふわもこ達も尊敬の眼差しをシフォンに向けているようだった。
やっぱりお姉さん的存在は伊達ではなかったらしい。


その様子を見ながら、僕はシフォンの説明を反芻する。

その中にあった一つ、『力を自身に宿す』——これは僕が初めに考えていた「知識や経験を物に写す」という事と似ている。
対象が自身か他の物か、の違いだ。
もしかするとふわもこ達が何かの参考になるかもしれない、と思った。


そういえば先代の中には外部の力を自身に宿す事に執心した者も何人かいた。
僕はその中の一人、『宿す者』と呼ばれた31人目——レファール＝ロンドを思い起こす。



〜・〜・〜・



[No.31:Refale=Rondo]



彼は自分の力や才能に自信がない人間であった。
それでも初めの内は自身の方向性を探すために様々な分野に手を出した。
しかし、そのどれも彼が道を決めるに値するものではなかった。
どうしても先代までの地点を超えるどころか手に届きもしない、そう感じたのだ。


ある日、彼は考えた。

——自分自身に可能性を感じないのであれば、誰かの力を借りればいいのではないか。

——それで駄目ならまた別の誰かの力を借りればいいのではないか。

——つまり、私は多くの誰かから力を借りる事ができる『器』を目指すべきだろう。


その日から彼は他者の力を使う術に執心した。
その執心の後に彼は本当に他者の力を身に宿す事に成功したのだった。

その後、彼はこの術をより高みに昇華させるために日々精進したらしい——



〜・〜・〜・



他者の力を身に宿す術。
これを使えば僕ももう少し戦えるようになるのかもしれない。
僕の本来の役割ではないが、合間を見てちょっと試してみよう。

和気藹々としているふわもこ達を見ながらそう思った。

「———。」