黒丸は、物言わぬ骸を操りながら静かに瞬いた。

辺りは鳥の囀りと草根を押し退ける音だけが響く。

森を掻き分けて城を目指す、後ろからはちゃんと鹿矢達が付いて来ていた。

いきなり様子が変わった狂骨に果たして付いてくるのか、少し不安だったが問題は無いようだ。
彼等もまた大事な駒である、ここで失いたくはなかった。

もっとも、反発するようならば彼等もまた"骨"にしてしまえば良い事だ、と黒丸は密かに思っていた、
力を蓄えた今の自分なら、傀儡をもう二つ三つ増やす事等容易い事なのだ。


狂骨と、最後に言葉を交わしてからもう二日が経ったが、
今の狂骨はもう、見た目通りの骸でしかなくなってしまった、

最初こそ勝手に動く身体に抵抗を試みたり、呪いの痛みに身体を揺らしたりしていたが、
今ではもうその素振りすら見せない。

心が死んだのかも知れない、そう思った。

これだから、この方法は取りたくなかった。

心が死ねば、"思い"は生まれない。

狂骨は常に濃い"怨み"の"思い"を生み出していた、それだけに、やはり惜しい。

しかし仕方が無いのだ、狂骨は呪いを恐れて人を殺せなくなってしまったのだから、
人を殺せぬ人斬りに、何の価値も有りはしない。これは仕方が無い事なのだ。


そんな事を、悶々と考えながら道無き道を進んでいく、
前方を鬱陶しく遮る植物の蔦を切り払った時、黒丸は狂骨の動きを止めた。

道を開いたその先に、派手な馬車が停まっていた。

黒丸は、自分の体に光が増していくのを感じた、
この馬車は見覚えがある、農場に入れられる前に、一度。

そしてこの馬車の持ち主は、確か、確か。

「良い獲物を見つけたな」

気づけば口走っていた。

狂骨をゆっくりと振り返らせた、
振り返る狂骨を見て、後ろの頼もしい仲間達は戦闘の準備をし始める。

爪が地面を削る音、燃える火薔薇の甘い匂い。

さあ、始まるぞ。久々の、人斬りだ。


最後に、鹿矢がいつもの滑稽な目出し帽を被ったのを見届けて、駆け出した。

もう気づかれているだろうか？
どちらにせよ、斬るのだから問題は無いが。



刀が煌く、体が輝く。


さあ座長殿、飛び切りの"思い"を残してくれたまえ

すがりつくような青い瞳に背を向けて、座長は芝居がかった仕草で両手を広げる。