慢心。

恐らくはそれが原因だったのだろう。
一行に危機感が薄れていたのは確かだ。
驕りは、破綻に繋がる。
小さな綻びは音も無く足下に忍び寄る。
崩れた足場に気付いた時にはもう既に手遅れなのだ。


武装した二柱の女神がその配下の者達を率いている。
蓮花の精、氷雪の精、有角の水の魔物。
庭園を警護する者達。

北の地にて崇められる詩と豊穣の女神。
崇拝される者、高貴なる者。
なれど、偽り/狡猾/醜さを内包する。
多重なる一つ。
その分霊（わけみたま）。


この庭の女神像は彼女達を象ったものではない。
また別の、異質なものだ。


氷雪の精が凍てつく霧で視界と動きを遮り
有角の水の魔物が浸水の呪いを振り撒き絡め取っていく
蓮花の精が甘い眠りへと誘う
そして、女神の放つ雪水が急速に体力を奪っていった。

それらに耐え、捌き、打ち倒して徐々に数を減らしていく。


けれど

刃も、拳も、神威の鎧の守りを貫ききれぬままに戦況は悪化していく。
ゆっくりと絡め取り、じわじわと着実に押し潰してゆく。
水のように、積もる雪のように。冷たく、静かに。


イヨルが倒れ


サイが倒れ


リドレーが膝をついた。



最後に一人残ったミチエも奮戦虚しく、雪水に押し固められてその動きを停止した。
女神の命にはその刃は届かなかった。
呪いで形成している生体装甲が崩れだしていく
女神達は冷ややかに見下ろしていた。
愚かで傲慢な侵入者達を。


歯噛みする。その身体の震えは寒さによるものか。屈辱か。或いは。
意識を取り戻したリドレーと小声で一言、言葉を交わす。

「撤退だ！この領域から離脱する！」

力を振り絞り、撤退行動に移る。
懐から取り出した小石を地面に叩き付けて割る。
目眩ましと魔力撹乱の効果を伴う煙幕が急速に周囲を覆う。
まだ朦朧としているサイとイヨルを触腕で抱えて駆け出した。
疲労がのしかかる。意識が途切れそうになる。

「無様ナ！　情ケナイ！　ナントイウ有様ダ！　我ニ身体ヲ」
「煩い、黙れ。力が足りないのはお前の責任でもあるだろう！」

歯噛みする。憎悪する。
こんな身体に成り果ててまで生き存えているのは何の為か
自問自答する。肉体に住う同居人と罵り合う。
そうすることで意識を繋ぎ留めていた。


神属への憎しみ。

それが今、刻まれたものなのか
内なる悪魔のものなのか
ミチエにも定かではなかった。

常よりも更に口数が少ない。

始まりは唐突に、一言目から無遠慮に。
幼い風貌の魔女が、宙をふわりと、まっすぐ近寄ってくる。

少し前に遭遇した、独特の風貌をした魚人族の魔物を思い浮かべる。

舌打ち交じりに。

屠ったリリスを見やり…

一角獣ユニクロが何やらとてもどうでもいい口上を垂れている。
要約すると自分に何かあったらとこのツノの生えた馬にPSを託したらしいが…

——数刻も経たぬうちに死んだ筈の飼い主がやって来た。馬はぶっ飛ばされた。

　　　△　　土　▲
　　（　㊤　皿　㊤）　　がしゃーん
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　／│　　塊　　│＼　　　　　　　　　がしゃーん
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