じりじりと頭上を渡る太陽に焦がされながら、必死に、しあわせの記憶を辿る。
まだ忘れていない。まだ。

髪を梳くかあさんの指。
額に触れるぬくもりが遠ざかっても、その安らぎだけはまだこの胸にある。
あの安寧を守れなかったこと、守ろうとさえできなかったことが、何よりも大きな罪だ。
なのにそれすら忘れるなんて、許されるはずがない。

どうして、忘れたくない記憶ばかりが薄れてしまうのだろう。
優しい思い出は、水のようにするすると指の間をこぼれ落ちていってしまう。
まるで私自身が痛みを濾し取る布地であるかのように、私の中には痛みばかりが残る。

それは例えば、夕日に輝く村の光景。
私には入っていくことのできなかった幸せのかたちに、引き裂かれるような胸の痛み。
あるいは父が私やかあさんを打ち据える手、それがくうを引き裂く風鳴りの音。

肉の身体についた傷は癒える。
けれどふとした瞬間に、もうそこには存在しない傷が、痣が、熱を持って私を苛んだ。

何度も何度も思い出をなぞる、その行為によってまた、思い出が擦り切れていく。
けれど一方で、痛みの記憶に触れるたび、傷を抉るように、それはひどく鮮明に蘇って。

いつか痛みから放たれることができたら、どんなにいいだろう。

そんなことは許されないのだと知ってなお、望むべくもない望みが胸をよぎる。
まして私はしあわせを、かあさんの生きていた、あの過去にしか知らない。
それ以外を得られる自分を、空想の中にさえ描けない。

息が、詰まる。