戦う。ちからを振るう。
その最中、わたしの内側には、ずっと恐怖がこびりついている。

奪われたくない。もう何も失いたくない。
かあさんを亡くした私の手に、残るものなんてほとんどない。でも、それでももう、ひとつも。
そしてその一方で、わたしは何も奪いたくない。誰からも、何も。
意に沿わずに奪いとられる、その痛みを知っていてなお、他人にそれを押し付けるようなことはしたくなかった。

けれどそのふたつが、けっして同時に叶えられることはないと、私はどこかで知っている。

否、きっとうまく両立できるひとは、いる。
ただ、私にはできないというだけで。
私はそんなふうに生きるには、理想を現実にするためには、弱すぎる。脆すぎる。
なにより私は、私自身を信用できない。

この身体に流れている、父の血。
あれだけの暴虐を行える、その血が私には流れているのに、何も奪わずにいられるだろうか。
そう怯えて身を竦めていれば、そのぶん奪われるばかりだというのに。
結局今も、私は何かを奪いながら、この一揆に参加しているのだ。
おそらくはその矛盾こそ、玄雲が私を嗤う一因なのだろう。
失うことを恐れて、他人にそれを強いる愚かしさが。

考えごとばかりが増えていく。
自分の行動を信じられず、故にまっすぐ進んでいくことにためらいを覚えて、また、美しい庭を離れた。
女郎花、と呼ぶことにした生ける花は、庭を離れるのが不満なのか、契約を交わしてからこちら、一言も喋らない。

私はたぶん、女郎花からも何かを奪っている。
わかっているのに。

燈子の手を取り横に並ぶ。