玄雲が、悦びに似た震えを私に伝える。
戦いの最中は焼印に潜んで出てこなかったのに、相手が地に伏した瞬間にぶるりと震えたその、明らかな歓喜。
私にも伝染して、からだの芯が揺れるような感覚。

思わず、焼印を押さえつける。
他人の手に掴まれたように、じんと沁みる熱。
私の肌の上にあって私でない温度。
直後に私を力の限りに打ち据える手のひらを予感して、反射的に身を竦めた。

もちろん、この世界に父はいない。

かあさんを殴り、私を殴り、私たちのささやかな蓄えを思うさま貪ったあのひとは、いない。
それに今の私には、私を掴み、押さえつけて殴る手を振り払うだけの力がある。
あるはずだ。

そう思ううちにも、玄雲が落ち着かない。
押しとどめようとする私を嗤うようにざわめいている。
ふつふつと煮える鍋底のような昏い悦び。嘲笑に似た振動。
左腕のしるしが、熱を帯びたまま鎮まらない。

とにかく倒れた兵士のそばを離れて、先へ進む。
今は身じろぎもしない彼が、玄雲を昂らせている原因のような気がした。
事実がどうだったのかはわからない。深く考えている余裕もなかった。
その熱が引いたのは、しばらく進んで、またしても戦いの気配が立ち昇るころだったからだ。

　　　　　（背後について語る時とは打って変わってやわらかくはにかむ。）