全力全壊の魔力を叩きつけ、
　なおも立ち上がってくるチハヤの姿に後ずさりするジーン。



　ここから挽回するための策を練るために。
　使い果たした魔力の回復を待つために。
　……様子を見ていたはずの彼女の思考は、
　チハヤの一言一言にかき乱されていった。

　誰へ向けているのかも分からない笑い声が口から溢れ出す。
　しかし、目は冷たく凍りついたままだった。

　自らの魔法によって荒れ果てた地面を、ふらつきながら歩む。

　目の前のノイズをかき消すために進む。

　震えているのは、身体だけではなかった。

　地の割れ目に足を取られ、膝から崩れ落ちる。

　足を引き抜き、立ち上がった矢先。

　ゆっくりと前のめりに倒れる。
　体力も気力も魔力も残っているのに、
　彼女を支えている何かが折れた音がした。

　うつぶせのまま、なおも腕を使って這うようにチハヤに迫るが。

　おぞましさを感じる動きとは裏腹に、
　口から漏れる言葉は誰に宛てたものでもない独り言のように思えた。

　動きを止めたジーンは、まるで死体のように静かだった。

頷きつつも、思い出したのか目付きが若干厳しくなってきた。
師の仕事を知っているからこそ、その循環を乱す行為にはそれなりに敏感なようで、不機嫌そうに鼻を鳴らした。

……農場へは足を踏み入れた事は無い物の、風の噂で聞くカニバるニラ等の話は怖いなとか。
ひっそり某国産RPGに出て来る野菜モンスター達と同じ扱いであればいいなぁ……とか考えているようだ。

そう言って、苦笑いを浮かべつつも、チハヤの答えを聞き。

そう言うカヅチの手元から一瞬熱が放たれると、設計図は見る間に燃え、灰だけがはらりと足元に落ち。

『伴侶』と言うチハヤの言葉に、少し意外そうに目を丸め。
こいつ、鈍いとかそう言う以前の問題がある気もする……。

そう言うと、無意識なのかサラリと右手で左脇腹にある何かをなぞるように撫ぜ。
そのまま自然な流れで腕を組む。

ともあれ、今生きている時はそれなりに大切にしているつもりではあるが。
……チハヤがそう言うのであれば、俺もこれ以上首を突っ込む真似はしないでおこうか。

最後に思った事は、心の内に留め。
表向きには表情を変えず、そう頷いた。

しばらくうんうん考えている。

チハヤから落胆の声が漏れるまでは予想通りではあったが、その後の回答は社長にとって予想外のものであった。

ガハハと大口を開けてひとしきり笑った後、

彼から笑みが消えた。

と言うのは社長の方便である。社長にとって王の力は手段の1つに過ぎなかった。

社長が"復讐"したい相手は"不条理"という世界そのものに対してである。その前には、王という人間の範疇を軽く超えた程度の力なぞ、スタートラインの入り口にすらたどり着いていない。王の力は欲しいものではあったが、全てを投げ打ってまでではない。

少なくても、一揆参加者に倒される程度の力では尚更である。だから、王は誰に倒されてもいいと考えていた。理想を言えばそれは自分ではあったが。


……自分は大方不幸になるのは分かっている。この一揆中か、もしくは終了後か、下手したら明日かもしれない。

その時に、目の前にいる少女を悲しませたくはなかった。だから早いうちに連絡を断ったほうがいい。そうすれば自分がどうなろうと彼女の耳には入らないのだから。

それが社長の本心である。

社長は踵を返し、この場から去ろうとする。